朝ドラ『ブギウギ』趣里の“底力”が花開く瞬間が待ち遠しい スズ子が目立って見えない理由
もやもやしているスズ子を励ますのは、梅吉。続けることが大事であり、続けることが才能だと自分を例にして説く。梅吉は映画の脚本を書き続けているが、まったく芽が出ない。ツヤが切り盛りする銭湯という家業があるから、やりたくなったら脚本を書くという、わりと気楽な状況ではあるが、彼なりに見切りをつけられないことにも苦しんでいるのだろう。
誰にも認められなくても、お金を稼ぐことができなくても、自分がきっぱり辞めようと思わない限り、辞めることはできない。そして、世の中にはそうやって続けていたことで、いつの日にか花が咲くこともないことはない。が、結局花が開かないで終わってしまうこともあるだろう。それでも、礼子が言うように、まず自分を大切に、本人が思ったとおりに自由にやればいいわけで、諦めない自由は誰にも奪えない。
ツヤはなぜ、梅吉をやめさせないのか、スズ子に聞かれたツヤは「おなごの意地や」と答える。ツヤもまた続ける才能のある人なのだ。自分が選んだ梅吉を諦められないのだ。
この流れは、足立紳が脚本と監督を手がけた映画『喜劇 愛妻物語』を思わせる。ツヤを演じている水川あさみが、この映画では、売れない脚本家(濵田岳)の妻に扮し、倦怠期の夫婦生活に苛立つ日々を過ごしている。こっちの妻はかなり恐妻で、夫に容赦がない。でもどんなに夫に苛立っても決して別れないのだ。彼女のいじらしさがわかるシーンは傑作だ。
女の意地で、だめな男を決して見捨てないという状況は、男性のドリームな感じもする。前作『らんまん』の寿恵子(浜辺美波)にもそういうところがあったが、彼女には彼女のドリームがあった(滝沢馬琴の描く冒険の世界への憧れ)。だが、ツヤにはいまのところそれが描かれていない。一寸の虫にも五分の魂ではないがうまくいかずやるせなく生きる者にも魂があることは、梅吉に託されている。それをきちんと朝ドラで描くことも重要な課題ではあるだろう。社会生活を成り立たせることのできない者はだめという見方にどうしてもなってしまうことへの抵抗はあっていい。
がんばってもうまくできない人はいる。その代表が梅吉である。アホのおっちゃん(岡部たかし)やゴンベエ(宇野祥平)もそうだろう。不登校の六郎(黒崎煌代)もそうかもしれない。そして、スズ子もいまのところ、そうなのだ。趣里が、主人公(ヒロイン)なのに、なぜかあまり目立って見えない理由はそういう役どころだからなのではないか。そういう演技、演出をしているのではないだろうか。
たいてい主人公ーーとくにモデルのいる人物は、のちに偉業を行うという前提があるので、幼い頃から聡明だったりキラキラしていたり目立っている。『あまちゃん』のアキが「地味で暗くて向上心も協調性も存在感も華もないパッとしない子」という設定で、演じるのん(当時・能年玲奈)が背も高く透明感があってさわやかながら、猫背でぶっきらぼうな口ぶりで、パッとしない感じを演じていたように、趣里の場合も、自分の売りがみつからず脇役を6年やりくすぶり続けている、不憫かわいい人物を演じているのだろう。小柄で痩せているのでその属性がまた似合う。うまいことできず悩む少女が、これからどうやって、パワフルなブギの女王になるのか、その道筋が見えないほうが物語としておもしろい。
ドラマのなかで何度も繰り返し言われている、エンターテインメントとは現実を忘れさせるものである。現実ではさえない人物が舞台に立ったとき輝く、それこそドリーム。スズ子のそういう底力が魔法のように花開く瞬間が待ち遠しい。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK