田中宏明×三浦理香子×上杉祥三が考える“無償の愛” 『ニ十歳に還りたい。』インタビュー
映画『ニ十歳に還りたい。』が現在上映中だ。物語の主人公は、「経営の神様」とまで呼ばれながらも、会社を引退し、家庭をおろそかにしてきたことから施設で寂しく過ごす80歳の寺沢一徳。老年期の寺沢を津嘉山正種、青年期を田中宏明が二人一役で演じている。
寺沢は、ボランティアとして彼を支える山根明香(三浦理香子)に自らの過去を打ち明ける。寺沢の話に悲しみを覚えた明香が「彼の願いをひとつだけ叶えてほしい」と神に祈り、寺沢も彼女のために何かしたいと祈ると、突然、寺沢は「20歳に還る」ことに。明香と同い年となって始まる第二の人生だが、その先に待ち受けていたのは、人類にとっての永遠の命題である「無償の愛」による究極の選択だった。
製作総指揮・原作を務めたのは大川隆法。彼が生み出したこの物語を俳優陣はどのように演じたのか。今回は田中と三浦、明香の父・山根心太郎を演じた上杉祥三にインタビュー。制作裏からテーマである「無償の愛」にどう向き合ったのかをはじめとした幅広いトピックを率直に語ってもらった。
田中宏明×三浦理香子の“ピュア”さも見どころに
――9月29日に初日を迎えました。初日舞台挨拶でも公開の喜びを語られていましたが、改めて現在の心境からお話いただけますでしょうか。
田中宏明(以下、田中):待ちに待った公開で正直なところ安心しています。舞台挨拶もお客さまに温かく受け入れていただけて大変ありがたかったです。
上杉祥三(以下、上杉):公開初日の舞台挨拶への登壇は久しぶりでした。スタッフの方々の努力もあり、非常に気持ちよかったですね。
三浦理香子(以下、三浦):役が決まった約1年前は、完成して皆さんに観てもらうところまでたどり着けるのかどうかも分かりませんでした。今、公開を迎えられていることが嬉しいです。観てくださった方が本作をどう受け取ってくれるのか、いつもドキドキです。
――初日舞台挨拶では、赤羽博監督から「みんなが演出家で自分はまとめただけ」という話がありました。
田中:まだまだ経験が浅いので、監督や津嘉山(正種)さん、上杉さんに引っ張っていただいて成立した作品だと感じます。スピードも早いのでそれに付いていくのに精一杯でした。監督は寄り添ってくださるというか、「どう思う?」と毎回聞いてくれるので、自分としてもチャレンジさせてもらえたなと。
――同じ寺沢役を演じた津嘉山正種さんとは演技の打ち合わせも?
田中:打ち合わせの時や試写が終わった後にお話ししましたが、撮影日が一緒になることは、ほとんどなかったんです。鏡で年齢が入れ替わる場面を撮った半日だけですね。最初に監督を交えてお話させてもらった時に津嘉山さんが20歳の時の写真を持ってきてくださって、「自分が劇団に入った時はこうだったよ」とか「バイトしながら頑張ったんだ」とか「顔が似ているからいけるんじゃないか」と声をかけてくださったのは、演じる上でも非常に大きかったです。また80歳の寺沢を津嘉山さんがどう演じているかを目に焼き付けないといけないと思ったので、撮影日は全部見学させていただきました。実際に津嘉山さんが座った場所に座ったり(笑)。同じものを共有したいなと思いましたし、自分自身の個人の勉強としても大事だと思ったので。不安もありましたが、試写を観終わった後に津嘉山さんから「よかったよ」と話しかけてくださって、とても嬉しかったです。
――おふたりの声がアフレコで重なる場面も多々ありましたね。
上杉:津嘉山さんは吹き替え声優として二枚目の外国人俳優も演じる人だからね。
田中:そうですよね。ケビン・コスナーとか。もちろんアフレコも見学させていただきました。声を録っている現場、マイクに乗る瞬間を見ることができたのも貴重な経験でした。
――三浦さんはオーディションで今回の役を勝ち取ったと聞きました。
三浦:オーディションのことはよく覚えています。監督も「あなたはなぜ、今こういう動きをしたの?」と聞かれて、その段階からシーンを作っている感覚がありました。それを見て一緒にやりたいって思ってくださったことが嬉しかったです。やることはやりましたし、自分の出すものは出したという感じだったので、受かった驚きよりも感謝の気持ちが強かったです。選んでいただいた監督に「ありがとう」という感じで。「びっくり! どうしよう」という想いもなくはなかったですが、それは実際に台本を受け取ってからでした。
田中:僕も台本を読ませていただいた時、難しいと感じました。身体は20歳〜29歳でも中身は80歳という人物ですが、どんなに頑張っても足りない年月を実際に埋めることはできない。そこは自分なりにできることをやらなきゃと内容を詰めていきました。道筋が見えたのは、80歳の寺沢を演じるのが津嘉山さんと決まってから。「ここに向かっていけばいいんだな」というイメージを自分の中で持つことができました。それでも大変でしたが(笑)。本当に周りの方々に助けてもらいながら、青春を「生き直す過程」を精一杯表現しました。
――上杉さんから見て、田中さんと三浦さんの芝居はいかがでしたか?
上杉:田中さんも三浦さんも“ピュア”なんです。津嘉山さんとも「僕たちは“垢”がついているから、それを落とす時期に入ったな」という話をしてたのですが、長く演技を続けると、いわゆる「上手くなっていく」わけです。悪く言うと「若い時のピュアさや純粋さが消える」ということ。例えば舞台を観ていて上手い俳優さんに感心はしますよ。同世代でも「すっごいなあ、こいつ!」と思ったりもする。でもそれに“感動”はしないんです。津嘉山さんは「僕たちの仕事は人を感動させる仕事で上手くなっちゃダメなんだ」と言うんですね。もっと感動させる演技をするなら、このふたりから教わることがたくさんある。三浦さんは本作がほとんど初めての仕事だと思うのですが、どんな名優でも1回目の舞台があるわけじゃないですか。亡くなった友人・中村勘三郎は、晩年になっても「いまだに初日は足が震える」と言っていたんです。「3歳の時の初舞台があってずっとそれを覚えているから」と。だから、「彼らのようにやらなきゃいけない、ピュアであることに感動させられる」と津嘉山さんも試写会の後に話していました。田中さんもキャリアがついてらっしゃるけど、“垢”はついてないよね。テクニックでやろうとしない、毎回その気持ちでいることが俳優にとって大切だと改めて感じることができました。
――上杉さんの言葉を受けて、田中さんと三浦さんはいかがでしょう?
田中:とてもありがたいお言葉です。本当にいろんなテーマが詰まった作品で、迷いながらも演じきれて良かったです。青春や恋愛、自己実現と失敗、成功と代償、人生の儚さなど、いろいろな人生の命題を含んだ普遍的なストーリーなので、台本を読むたびにいろいろな発見があったんです。でも、それをどう拾っていけばいいのかは本当に難しくて。最終的には「青春を生きよう」というところで、ピュアさを大切に演じたということはありました。上杉さんにそう言っていただけて間違っていなかったのかなと。
三浦:私もうれしいです。実は将来、映画を撮りたいなと思っていて、「愛」というテーマから話を広げていくアイデアを考えたりしていますが、こんな「THE無償の愛」をメインにした作品に巡り合えてよかったなと思います。