『アリスとテレスのまぼろし工場』は朝まで討論できる一作 “あの頃”を思い出して悶える

『まぼろし工場』は朝まで討論できる一作

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、健康診断で再検査も通知されるようになってきたアラフォー石井が『アリスとテレスのまぼろし工場』をプッシュします。

『アリスとテレスのまぼろし工場』

 どんなに時間が過ぎても、誰しも忘れられない一場面があるかと思います。特に恋にまつわるものほど、決してポジティブではない形で、思わぬときにフラッシュバックしたり、夢に見てしまったりする人は多いのではないでしょうか。中年へ片足を踏み入れた筆者も、「なんであんなことを……」と穴があったら入りたい思いを抱くときがあります。

 『アリスとテレスのまぼろし工場』はそんな思春期の淡い思い出を半強制的に引きずり出すような一作でした。先に結論から言えば、本作は決して万人にオススメできる作品ではないと思いますし、ツッコミどころも多く、登場人物たちの行動や感情に嫌悪感を抱く人もいるかもしれません。それでも、好きの反対は無関心とはよく言いますが、少なくとも無関心には絶対になれない一作だと言えます。

 数々の名作を手がけてきた岡田麿里、アニメーション制作がMAPPAということからも、世界観設定、映像のクオリティなどは申し分なく、ワクワクする要素たっぷりです。本作の舞台は、突然起こった製鉄所の爆発事故により全ての出口を失い、時まで止まってしまった町。この一文だけ読むと意味がわからないといった感じもありますが、片田舎の都会ではない、閉塞感たっぷりの場所、とイメージしてもらえるとわかりやすいかと思います。「どこにも行けない(だからこそ飛び立っていける)」というテーマは、岡田麿里の過去作品でも繰り返し描かれてきたものであり、そういった場所で生まれ育った方ほど感情移入もしやすいのではないでしょうか。

 主人公・正宗は常にアンニュイな雰囲気をまとい、「どんより」という言葉がぴったりの高校生。彼が大嫌い(だけど大好き)な少女・佐上睦実に惹かれる中で、少しずつ“変化”していき、謎の少女・五実(正宗が名付ける)と出会い、世界の真相を知っていく……というのが大まかなあらすじです。五実の謎や、睦実と正宗のやり取りをどう思うかが、本作への評価が大きく変わるポイント。私はこの点にどうしても乗ることができなかったのですが、それも心のどこかにある抑えておきたい願望の表れのせいなのかもしれません。

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