『わたしの幸せな結婚』上田麗奈&石川界人の言葉を超えた想い 美世と清霞の“幸せ”に涙

『わたしの幸せな結婚』美世と清霞の幸せに涙

「わたし、ここにいたいです。旦那様が許して下さるなら」

 それは、幼い頃からずっと虐げられてきたヒロインが初めて口にした願いだった。毎週水曜日の深夜帯に放送されているTVアニメ『わたしの幸せな結婚』(通称『わた婚』)。第4話のラストシーンを観て、目黒蓮と今田美桜で実写化された映画の感動がぶわっと蘇ってきた。

 本作は、富士見L文庫(KADOKAWA)から刊行されている顎木あくみの同名小説を原作としたもの。今年の3月には電子書籍・コミック含むシリーズ累計発行部数が700万部を突破。高坂りとによるコミカライズも好評で、アニメ化、映画化に続き、舞台化作品も来月から幕開けになるなど、さまざまなメディアに展開されている。その人気の秘密は誰もが親しみやすい王道のシンデレラ・ラブストーリーと、もともと原作が連載されていた小説投稿サイト「小説家になろう」で根強い人気を誇る異能バトルファンタジーの融合だ。

 本作は“架空の世界”とされているが、大正ロマン溢れる帝都が舞台。由緒正しき斎森家の長女として生まれたヒロイン・美世の視点から物語は紡がれていくが、しょっぱなから彼女がひたすら家族からないがしろにされる辛い描写が続く。

アニメ「わたしの幸せな結婚」PV第2弾《美世篇》|2023年7月5日(水)より放送開始

 幼い頃に母を病で亡くした美世。その後、父・真一のもとには新しい妻・香乃子が迎えられるが、彼女はかつての恋敵の忘れ形見である美世を可愛がろうとはしなかった。やがて、真一と香乃子の間に次女の香耶が生まれると、美世の扱いはますますひどくなる。そして彼女は良家の令嬢であるにもかかわらず、継母と異母妹から使用人同然の扱いを受けるのだ。まさに灰かぶり姫こと、シンデレラである。

 そんな彼女が辛い境遇から抜け出すきっかけとなったのが、名家・久堂家の若き当主である清霞との縁談だった。でも、それは最初から美世の幸せを願ってのものではない。これまで何人もの婚約者を追い出してきたという冷酷無慈悲な清霞のもとへ嫁がせることで、体良く彼女を追い出すためだ。美世が全てを知りながら、誰にも見送られず一人で斎森家を出ていくシーンは胸が張り裂けそうなほど辛く悲しい。

 だが、ここから良い意味で期待は裏切られ、美世は意外にも久堂家で大切に扱われる。それは彼女自身が他人に対して何かを要求することがないからだ。「私が出て行けと言ったら、出て行け。死ねと言ったら、死ね」という清霞の理不尽な要求すらも飲み込み、常に顔色を伺って過ごす美世を見たら、何も知らずとも長年冷遇されてきたことが分かる。そんな美世を次第に愛おしく思うようになる清霞の温かい行動で、彼女の心に張った氷が少しずつ溶けていく様が前半の見どころだ。

 古典的といえば古典的だが、美世の今にも壊れてしまいそうな心を表現する上田麗奈の儚くも澄み渡った声、一見冷たい印象を受ける清霞の根っこにある優しさを伝える石川界人の穏やかな口ぶりに心を絡め取られ、いつの間にか二人の幸せを自分事のように願っている自分がいる。映画でも美世と清霞が心を通わせていくさまが非常に丁寧に描かれており、言葉以上のことを伝える目黒と今田の繊細な演技と微笑ましい二人のやりとりに何度も涙させられた。物語の面白さもさることながら、やはり本作品において成功のカギを握っているのは美世と清霞の魅力あるキャラクターなのである。

映画『わたしの幸せな結婚』予告【3/17公開】

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