『クレヨンしんちゃん』最新作は令和版『オトナ帝国の逆襲』だ 新時代を共に生きるために

『クレしん』最新作は令和版『オトナ帝国』だ

 物語についても、令和という時代に相応しいものに仕上がっていた。平成の初めに生まれて30年を過ごしてきた非理谷充は、コミュニケーションが苦手で就職もうまくいかなかったのか、派遣社員としてティッシュ配りの仕事をして暮らしていた。その充が一種の超能力を得たことで、世の中に復讐を始めようとする。非正規で働く人が増え、将来への不安も消えない日本に生きる人に、どこか引っかかるところをもった設定だ。

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜

 パンフレットによれば、充は「平成」という時代の象徴とのこと。その充をどのようにして止めるかが、同じように不安を抱えて生きる人たちへの指針となる。映画では、やはり超能力を得たしんのすけが充の前に立ちふさがるが、ただ力でねじ伏せようとするのではなく、充の不満や不安に耳を傾けようとするところに、これからの日本がすべきことが見える気がする。

 原恵一が監督した『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)では、昭和の思い出に溺れてしまった大人たちに、しんのすけが平成の今を生きるのだと呼びかけ引き戻した。その平成が苦いものとなってしまい、出てきた人々の叫びにまたしてもしんのすけが映画の中から、令和という新時代を共に生きようと呼びかける。その令和もパンデミックや戦争といった不安の渦中にあるが、やんちゃで前向きで家族思いのしんのすけに触れることで、頑張ってみようと思えてくる。

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜

 『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』を観れば、きっと誰もがそうした思いを抱けるようになるだろう。手巻き寿司をいっしょに作りながら食べる相手は見つからなくても、生きていこうと思えるようになるだろう。

■公開情報
『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』
全国東宝系にて公開中
原作:臼井儀人(らくだ社)/『月刊まんがタウン』(双葉社)連載中
監督・脚本:大根仁
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ
声の特別出演:松坂桃李、空気階段、鬼頭明里
主題歌:サンボマスター「Future is Yours」(ビクターエンタテインメント)
製作:しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会
配給:東宝
©臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会
公式サイト:https://www.shinchan-movie.com/
公式X(旧Twitter):@shinchan3dcg

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