『逃げ恥』『けもなれ』から『向井くん』へ “結婚”の呪縛を解き放つ恋愛ドラマ
面白いのは、このドラマにはもう一組すれ違うカップルがいるということだ。先述の向井くんの義理の弟の元気は、妹の麻美(藤原さくら)と結婚して、母親と向井くんと同居している。しかし、元気はふたりの新居を探そうと考えており、麻実とふたりでマンションの内見をするが、不動産屋から「ご主人」と呼ばれ、自分は「大黒柱」だとまんざらではない様子。
これに対して麻実は、「わたしたちふたりの間にノイズが混ざってるのが嫌だ」「他人や制度に定義づけされたくない」「夫とか、世帯主とか、大黒柱とか、そういうのに押しつぶされる元気みたくない」と訴えるのだが、元気は麻実が浮気しているのかと勘ぐったり、また「みんなやってることじゃん、普通のことじゃん、結婚ってそういうもんじゃん」「結婚したら、男として家くらい……」「ひとりの男として、そういうの背負って麻実を幸せにしたい、結婚ってそういうことでしょ」と言うなど、麻実の言う「ノイズ」について、まったく理解できていない態度をとる。
特筆しておきたいのは、『逃げ恥』の平匡さんも、『けもなれ』の京谷も、『花束』の麦も、『こっち向いてよ向井くん』の向井くんも、元気も、普段はけっして悪い人間ではなく、むしろ優しくて、あまり「男らしさ」を意識していない無害なほうの人間だということだ。しかし、こと「結婚」がちらついた途端に、急に「男とは」「責任とは」「守るとは」と考えはじめてしまう。
このように、ドラマや映画の世界では、結婚を前にすると、男性が急に「男らしさ」や「責任」を持ち出す姿を問題提起する作品が見られるようになってきたが、ほかのドラマやバラエティでは、旧来的な、「結婚は男性が女性を守るもの」という価値観のものはまだまだ見られる。
だからこそ、これまでのドラマでこうしたすれ違いを描いても、いまいちピンとこなかった人もいたはずだが、『こっち向いてよ向井くん』の場合は、元気と麻美という、もうひとつのカップルも描くことで、より「結婚は男性が女性を守るもの」という、旧来的な考え方への疑問が明確に伝わるようになっているように思える。
さらに、向井くん自身も第3話、第4話の中で、3年前に一度だけ体の関係を持った原チカ(藤間爽子)と結婚を前提としたつきあいをはじめ、どんな会話もシステマチックに結婚に向けた計画の話に変わってしまい、チカの内側の話が聞けないことに戸惑いを感じ、別れることになってしまう。向井くん自身が、「結婚とはこうであるべきだ」という思い込みから、少し解き放たれていることがわかるのだ。
ふたりが別れることになってはじめて、チカも本音を話しはじめ、「内側」に触れられていたのが、さわやかな感覚をもたらしていたし、またちょっとほろ苦いところでもあった。
第4話の最後、チカとの別れを経験して向井くんが「こんな日は誰かと話したい」と考えていたのは洸稀であり、恋人の家からの帰り道の洸稀もまたそう考えていた。恋愛感情抜きで語り合うふたりの関係性が描かれているところも(現時点では)良いなと思える。
■放送情報
『こっち向いてよ向井くん』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:赤楚衛二、生田絵梨花、岡山天音、藤原さくら、財前直見、森脇健児、内藤秀一郎、上地春奈、岩井拳士朗、若林時英、田辺桃子、久間田琳加、市原隼人、波瑠
原作:ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:渡邉真子
演出:草野翔吾、茂山佳則ほか
音楽:FUKUSHIGE MARI
チーフプロデューサー:三上絵里子
プロデューサー:鈴木将大、柳内久仁子、妙円園洋輝
協力プロデューサー:福井芽衣
制作協力:AX-ON、ダブ
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
©︎ねむようこ/祥伝社フィールコミックス
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/mukaikun/
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