『らんまん』要潤演じる田邊の誰にも理解されない孤独 万太郎と再び交わる日は来るのか

『らんまん』田邊が万太郎を波紋にする

「何を期待していたんだか……」

 そう呟く時の、田邊(要潤)の表情が頭にこびりついて離れない。ただ純粋に植物を愛し、その成果を次々と挙げる万太郎(神木隆之介)が疎ましかった。だけど、どこかで自分もそうなりたいと思っていた。

 そんな中、万太郎が世にも珍しい植物を見つけ、心がワクワクした。それがアルドロヴァンダ・ヴェシクローサと呼ばれる、日本では未発見の食虫植物だと突き止めたのは田邊だ。万太郎にあえて教えないことも、自分の手柄にすることもできたはず。だけど、彼はそうしなかった。万太郎に協力することで、手と手を取り合うことで、自分も変われるかもしれない。野宮(亀田佳明)が言ったように、これからは万太郎と敵対するのではなく、日本植物学の発展のため、互いに励んでいけるかもしれない。そう思ったのだろう。

 だが、蓋を開けてみたら、万太郎の書いた論文に自分の名前はなかった。少しでも期待した自分への哀れみ、万太郎への怒りや失望、諦め……。あの一言と表情には色んな感情が渦巻いていたように感じる。

 田邊から植物学教室への出入りを禁じられてしまった万太郎。『らんまん』(NHK総合)第18週が幕を開け、万太郎は自分がしでかしてしまったことの大きさを実感する。とはいえ、田邊を怒らせてしまった本当の理由についてはまだ理解できていないようだ。

神木隆之介

 万太郎はひたすら頭を下げ、大窪(今野浩喜)や波多野(前原滉)、藤丸(前原瑞樹)も彼を許してやってほしいと懇願するが、それは火に油を注ぐことにしかならない。田邊は植物学研究の礎となる膨大な数の標本と資料を集めたのは自分だと主張し、それを利用して手柄を挙げた万太郎を“泥棒”と称する。ひどい言い草だ。それに、植物学教室に万太郎を招き入れたのは田邊本人である。だけど、田邊が万太郎の出入りを許したのは、彼がその恩恵を大学や自分自身に還元してくれると信じていたからだ。でも万太郎はあくまでも自分の手で新種を発表することにこだわった。田邊はそれに納得できなかったが、前述の思いもあり、最終的には万太郎に花を持たせることにした。彼は彼なりに、かなり歩み寄ってきたつもりなのだ。

 一方の万太郎は「出入りを禁じられたら、研究を続けることができません」と言っているように、田邊の許しがなければ今の自分がいないことは重々理解している。感謝をしてもしきれないと心の底から思っている。だが、その示し方が彼にとっては成果を出すこと、だけだった。「おまんは捨てたがじゃ。ほんなら振り返りな。かわりに何をするかじゃろう」。かつて、牢にいる声明社の仲間に後ろ髪を引かれる万太郎にタキ(松坂慶子)がかけた言葉を思い出す。万太郎は自分の夢を追いかけるために、色々なものを捨ててこなければならなかった。その分、結果を出せるように頑張ってきたのだ。今まではそれで良かった。苦労をかけたタキも、綾(佐久間由衣)も、竹雄(志尊淳)も、寿恵子(浜辺美波)も、みんな喜んでくれたのだから。これで間違っていないと、万太郎が理解するには十分だった。

らんまん

 だけど、彼らは身内で、田邊は所詮他人だ。万太郎が一つのことに集中すると周りが見えなくなる性格だと理解しているわけでもなければ、彼が論文で自分への謝辞を示さなかったことを受け流せるほど田邊自身、余裕があるわけでもない。では、田邊は器の小さい人間なのかというと、そんなことは決してないだろう。国のお金で留学させてもらった恩に報いるべく、政府の仕事をたくさん引き受けてきた田邊。そこで得たコネクションで植物学研究に必要な資料や文献をかき集め、学生たちに提供してきた。だけど、それは目に見えぬ苦労だ。田邊がいてこそ、植物学教室は、学生たちの研究は成り立っている。

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