『水星の魔女』は令和に刻まれる『ガンダム』に 視聴者の予想を覆した多彩なキャラ描写

想像を覆した『水星の魔女』

 2022年10月の放送開始以来、多くのファンを巻き込んで2クールの放送を突き進んだ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』がフィナーレを迎える。

 同作品の公式Twitterアカウントのフォロワー数は50万人弱という驚くべき人数で(2022年6月末時点)、毎週の放送を終えるたびにトレンドに関連ワードがあがり、男女問わずファンアートが多くネットに投稿される盛り上がりぶりだ。今までガンダムシリーズに触れたことがなかった人も毎週視聴しているほど、新たなファン層を開拓するという制作側の狙いは上々の結果を得ている。『水星の魔女』は平成時代の『機動戦士ガンダムSEED』(2002年〜2003年)のように、令和を代表するガンダム作品になり得たように思える。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2 クライマックスPV

 『水星の魔女』のドラマを動かす2人の主人公、スレッタ・マーキュリーとミオリネ・レンブラン。番組スタート時から終盤まで観見続けていると、紆余曲折の出来事を経た彼女らの人間的成長が感じられ、2クール作品ならではの良さが浮かび上がる。

 初期話数のスレッタは、見るもの総てが珍しい“おのぼりさん”状態で、数々の嫌がらせに心折れて号泣するような少女だった。母プロスペラに多少の疑念を抱いても、すぐに丸め込まれて従順になってしまう辺りは、プロスペラのマインドコントロール下にあるのでは?  と思わせるほど、前後の態度が豹変していた。より顕著にそれが描かれているのが第12話で、人を射殺した母親を見たスレッタは、視点が定まらないほど激しく動揺するものの、「あなたは進める子、でしょ?」と励まされると、直前まで抱いていた恐怖心が嘘のように強い決意で上書きされている。

 この場面でも出てくる台詞「逃げたら1つ、進めば2つ」は、今までスレッタの金言のように幾度となく唱えられていたが、実際は彼女を縛り付ける呪いの言葉のように聞こえる。やがてスレッタは、進んだ先で何も手に入らなくとも、今やれることをやるべきだという考え方に変化するのだが、そこに至る道のりにはミオリネの存在があった。

 ミオリネにしてもシリーズ初期から中期にかけては、胸の内を明かさないツンツンした印象の少女であるが、スレッタが自虐心から友人関係にストレスを感じていたことを偶然知り、ぶっきらぼうな物言いながら初めて「ずっとそばにいて」と素直な気持ちを口にした。2人は第11話にしてようやく本音でぶつかりあって固く抱き合う。スレッタに好意を抱いているそぶりは、それまでも端々に伺えていたものの、1クールの終盤にきて、やっとミオリネの本心がはっきりと描かれる印象的なエピソードだった。躊躇なく人を殺したスレッタに一度は混乱するものの、自分を助けてくれた行いに対して酷い言葉を浴びせたことを詫びたり、取り返しが付かないミスに落ち込んでいた時にスレッタからの言葉で立ち直りを見せたりと、目に見えて距離感が縮まっていった。そして2クールの放送期間中に成長を遂げたのは、スレッタとミオリネだけではない。

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