『ラストマン』は制作者たちの予想も超えた作品に? 時代と共鳴した生々しさ

『ラストマン』は時代と共鳴した作品に

 犯罪を扱ったドラマでは、同時期に似たような事件が起こることが稀にある。立てこもり事件を描いた第6話が放送される直前にも、長野で猟銃を持った男による立てこもり事件が起こってしまった。この回は第1話以上に現実に起きた犯罪を想起させる内容だったため、第6話では冒頭に「本日の日曜劇場『ラストマン』は立てこもりのシーンが含まれています。ご懸念のある方は、試聴をお控えください」と注意書きが表示され、放送の終わりでは「長野県の立てこもり事件でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げます」という哀悼の意がテロップで表示された。

 脚本執筆から放送までの期間が短いテレビドラマには同時代の空気のようなものが映り込んでしまうことが多い。特にそれは芸術的な作品よりも『ラストマン』のようなエンタメ志向の作品において発生しやすい。作り手もそのことを意識してか「無敵の人」や「親ガチャ」といった近年、SNS上で流行っている言葉を意図的に劇中のセリフとして言わせており、刑事ドラマという枠組みを通して現代社会の闇に迫ろうとしていた。結果的にその試みは成功し、本作は番組制作者の予想をはるかに超えて、時代と共鳴する作品になってしまったと言えるだろう。

 一方、1話完結のエピソードと同時進行で描かれていたのが、41年前に皆実の両親が殺害された強盗放火事件の真相追求の物語だ。実は強盗放火事件の犯人として逮捕された鎌田國士(津田健次郎)は心太朗の実の父親で、皆実が心太朗を日本でのアテンド役に直接指名したのは、容疑者の息子だからだった。

 皆実の目的を知った心太朗は一度はバディを解消するが、彼もまた自身の過去と向き合うために、皆実とともに事件の再捜査をはじめる。そして第9話では、事件の背後に大物政治家の弓塚(石橋蓮司)がいることが明らかとなるが、捜査一家の刑事で心太朗とは義甥の護道泉(永瀬廉)が事件に深い関わりを持つ元捜査一課長の山藤(金田明夫)に刺されてしまう事件が起こってしまう。

 最終話目前で、大きな盛り上がりを見せる『ラストマン』だが、最後に描こうとしているのが、警察組織と政治家という巨大な権力との戦いだというのが興味深い。派手なガジェットと強烈なキャラクターを武器に、現代的な犯罪を描いてきた『ラストマン』が、最後に何を見せてくれるのか、楽しみである。

■放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:福山雅治、大泉洋、永瀬廉(King & Prince)、今田美桜、松尾諭、今井朋彦、奥智哉、王林、寺尾聰、吉田羊、上川隆也
脚本:黒岩勉
演出:土井裕泰、平野俊一、石井康晴、伊東祥宏
撮影監督:山本英夫
プロデュース:益田千愛、元井桃
編成プロデュース:東仲恵吾
音楽:木村秀彬、mouse on the keys
全盲所作指導:ダイアログ・イン・ザ・ダーク
協力:日本視覚障害者団体連合
製作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/lastman_2023_tbs/
公式Twitter:@LASTMAN_tbs
公式Instagram:LASTMAN_tbs

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