『水星の魔女』ノレアの生き方が投げかけた“大事な問い” 憎しみが生み出す悲劇の連鎖
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第20話「望みの果て」では、グエルvsシャディク、ノレアとエラン(強化人士5号)の絆など、さまざまな角度で“ガンダムらしさ“を体感できた。中でもスペーシアンへの激しい嫌悪感を抱いているノレアが本心を見せた描写は、胸に来るものがあった。
※本稿は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第20話のネタバレを含みます。
これまでの一連の事件の黒幕をシャディクだと考えたグエルは、ダリルバルデに乗ってシャディクを迎え撃つ。グエルは話し合いをするつもりだったが、シャディクがグエルの牽制攻撃に自ら当たりに行き、反撃する大義名分をシャディクに与えてしまったことで戦闘が始まってしまう。地球で生まれた半アーシアンの孤児でもあるシャディクにとって、スペーシアンとして恵まれた両親のもとへと生まれたグエルは憎い。これまで犯してきた罪はスペーシアンが原因だと言い放つ。最後には「俺は俺の罪を肯定する……!」と居直るシャディクの饒舌ぶりは初めて見た。どちらかというと冷静な人という印象も、それだけアーシアン思いの人物であることがわかる。
地球側の状況を整理すると、スペーシアンの戦争シェアリングによってアーシアンは数々の犠牲を強いられていた。その現状を変えるためにシャディクは動いている。アーシアン側から見れば、シャディクの行動はまるで神様のようなもの。実際にシャディクは地球での慈善活動を積極的に行っており、前回のセドの言葉からもわかるように地球の孤児たちからは尊敬されているようだ。こうして見てみると、多少強引とはいえ、自らの信念のもとに一貫して行動している点では共感できる。むしろ、ここで浮かび上がってくるのは、戦争シェアリングを肯定するスペーシアンの卑劣さなのではないだろうか。
そんなシャディクに対して「知っているさ。俺もお前も自分の罪は自分のものだ。それでもけじめはつけさせる!」と責め立てるグエル。罪を肯定し、それを必要悪として向き合っているシャディクとは異なる姿勢だ。シャディクとの戦闘を通じて、グエルの成長が大きく感じられた。このシャディクの一連の行動はアーシアンとの戦争だけでは動かない議会連合にベネリットグループへの介入を促すためのものでもあり、未だに謎に包まれている議会連合が次回どう動くのか非常に興味深い。
その間にグラスレー寮に軟禁されていたノレアとエラン、ニカが解放される。部屋を飛び出したガンダム・ルブリス・ソーンに乗って、学園を殲滅しようとするノレアに対し、エランは「何でまたガンダムに乗るんだ」「死ぬのが怖いなら逃げろよ!」と静止するが、ノレアはその言葉に耳を貸さずに出発するのだった。似た境遇をもつエランからガンダムに乗って死ぬことへの恐怖心を指摘され、涙を流したこともあるノレア。彼女にとって命を削る行為でもあるガンダムに乗ることは何よりも避けたいことのはずだ。それでも憎むべき存在であるスペーシアンへの憎悪は何よりも大きい。憎しみの連鎖を断ち切るための行動も、また憎しみを生んでしまう。終わりの見えない戦いなのだとつくづく感じさせられる。