『メディア王』は視聴者に現実を突きつける 身の毛もよだつエピソード『アメリカの決断』
さらなる接戦の報せが届くと、ローマンはいよいよメンケンの当確発表に踏み込む。社の利益と良き父でありたいという理想論の間で逡巡するケンダルはあまりに脆く、彼を挟んで右と左で対立するローマンとシヴは互いに「父だったらどうする?」と口にして、国の命運を賭けてもなお亡き父への承認欲求に囚われ続けている。必死にメンケンの当確を阻止しようとするシヴだが(演じるサラ・スヌークが素晴らしい)、稚拙なミスによって裏切りが露見。ケンダルは早計にも彼女を断罪すると、メンケン支持の意志を固める。『アメリカの決断』というタイトルは辛辣だ。ここには主権者たる国民の決断など存在せず、彼らに代わって決断を下す者たちもまた目先の利益に囚われ自滅している。シーズン4に入ってからというもの、筆者は『ゲーム・オブ・スローンズ』が何度も脳裏をよぎっていた。焼け野原となった王国に継承者たる者は存在するのか? 2010年代の終わりに物議を醸した終幕は、アメリカの自滅を先んじていた。入れ替わるようにHBOの看板番組となった『サクセッション』はドラゴンを出すことなくアメリカを焼き払い、視聴者に現実を突きつける。「奴とは取引ができる」と前のめりになりながら、舌の根も乾かぬうちに「取引できない相手もいる」と独り言ちるケンダルを断じることは容易だが、ここで描かれる愚かさは海を隔てた私たちにも決して無縁ではないだろう。
『アメリカの決断』には束の間、私たちに近い高さの視線を持った者が現れる。メンケン当確の報を打つと聞いて立ちすくむグレッグ(ニコラス・ブラウン)と、そんな彼に「仕方ないわよ」と声をかける秘書ジェス(ジュリアーナ・キャンフィールド)だ。彼女もまたメンケンの当選に脅かされ、困惑の色を浮かべている。グレッグは言う。「僕が選んだわけじゃない。ボタンを押すだけ。僕が行かなくても変わらない。現実として……イカれてる。どうかしてる。どうかしてるよ」
■配信情報
『メディア王~華麗なる一族~ シーズン4』
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