『インディ・ジョーンズ』はいびつな映画? 残酷描写に表れたスピルバーグの思想

『インディ・ジョーンズ』全体のテーマを考察

 6月30日より、『インディ・ジョーンズ』シリーズの最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が公開される。

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6月30日に公開される『インディ・ジョーンズ』シリーズの最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の本予告と本ポスターが公開…

 それにあたって『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』 (1981年)、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』 (1984年)、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 (2008年)の4作品を一挙放送。ちなみに『金曜ロードショー』が放送開始したのは38年前の1985年で、その記念すべき第1回放送作品が『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』だったそうな 。

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』TM & ©1981, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.

 『インディ・ジョーンズ』は、スティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスという、当代随一のヒットメイカーがタッグを組んだ冒険活劇。映画史に燦然と輝く超人気シリーズである。だが演出は極めてエクストリームな残酷描写に満ちていて、ほとんどホラー映画の域。それでいて「父と子」というスピルバーグ的なモチーフも内包された、非常にいびつな映画であると筆者は思っている。本稿ではそのあたりを解説していこう。

インディ・ジョーンズの誕生

 ファンの間ではあまりにも有名な話だが、簡単にインディ・ジョーンズ誕生の経緯だけおさらいしておこう。ジョージ・ルーカスが最初に構想を思いついたのは、『アメリカン・グラフィティ』を完成させた1973年頃。彼は盟友フィリップ・カウフマン(『ライトスタッフ』(1983年)や『存在の耐えられない軽さ』(1988年)で知られる映画監督)に声をかけ、「インディアナ・スミスという名前の主人公が活躍するアドベンチャー映画」の骨子を固めていく。

 実はこのタイミングで、ルーカスはカウフマンに監督を打診していた。だが彼は、クリント・イーストウッド監督の西部劇『アウトロー』の脚本を手がけていて、物理的に動けない。結局ルーカスも、もう一つ構想していた『スター・ウォーズ』の製作に集中することになり、一旦このプロジェクトは棚上げ状態となる。もしフィリップ・カウフマンが監督を受諾していたら、この人気シリーズはだいぶ毛色の違うものになっていただろう。

 その数年後、苦心惨憺の末になんとか『スター・ウォーズ』を創り上げ、ハワイで休暇を過ごしていたルーカスは、同じく『未知との遭遇』(1977年)を撮り終えたばかりのスピルバーグと、ビーチで談笑していた。スピルバーグは『007』シリーズの大ファンで、「いつかジェームズ・ボンド映画を演出したい!」とその想いを熱っぽく語る。(※)

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』TM & ©1981, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.

 ルーカスは「もっといいアイディアがある」とインディアナ・スミスの構想を語り、スピルバーグに監督を打診。『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980年)のシナリオを書いたローレンス・カスダンを招聘して、着々とストーリーを固めていく。スピルバーグが“スミス”という名前を嫌ったため、最終的に主人公の名前はインディアナ・ジョーンズとなった(インディアナという名前は、ルーカスの愛犬から命名されたもの)。

 インディ役には、『スリーメン&ベビー』シリーズで知られるトム・セレックが内定していたが、人気テレビシリーズ『私立探偵マグナム』の撮影が入っていたため、泣く泣く辞退。スピルバーグが、『スター・ウォーズ』のハン・ソロ役ですでにスターだったハリソン・フォードを強硬に推したことで(ルーカスはその提案に乗り気ではなかったらしい)、ハリソン・フォード=インディ・ジョーンズが遂に誕生。彼のハマリ役になったことは、周知の通りである。

エクストリームな残酷描写

 『インディ・ジョーンズ』シリーズを見返してみると、とにかくゴア描写のオンパレード。『レイダース』ではナチスの顔面がドロドロに溶けるわ、『魔宮の伝説』では手掴みで心臓を取り出すわ、『最後の聖戦』では一気に白骨化するわと、いたいけな子供が観たら三日三晩うなされそうなくらいに、めっちゃグロい。

『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』TM & ©1984, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.

 特に『魔宮の伝説』は、あまりにも刺激が強すぎるため、17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要となる「R指定」になっていたほど。それにスピルバーグが異議を唱え、保護者の検討が望ましい「PG指定」と「R指定」の間に、「PG-13」というレイティングが新しく追加されたのだ(さすがスピルバーグ、ものすごい影響力である)。

 よくよく考えてみれば、『ジョーズ』(1975年)にせよ、『ジュラシック・パーク』(1993年)にせよ、『宇宙戦争』(2005年)にせよ、フィルモグラフィーを通じてスピルバーグの悪趣味はダダ漏れしていた。しかも80年代は、『13日の金曜日』や『ハロウィン』などに代表されるスラッシャー映画が隆盛を誇った時代。スピルバーグのホラー作家的感性と、80年代という時代性が組み合わさることで、ビッグバジェットムービーとしては異様なくらいに残酷性がマシマシとなったのである。

『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』TM & ©1989, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.

 このシリーズを観てみてもう一つ感じるのは、あまりにも人間の死が簡単に描かれすぎていること。例えば『レイダース』 には、大刀をふるう男に対し、インディが拳銃一発で仕留めてしまう場面がある。実際には大立ち回りが予定されていたのだが、ハリソン・フォードが体調不良で激しいアクションができなかったために、急遽このような演出が採用された。

トラウマシーンもいっぱい 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』はグロくてワクワク

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 劇場で観たとき、観客がこのシーンでゲラゲラ大笑いしていたのをよく覚えている。だが、ちょっと待て。悪人とはいえ、人が一人死んでいるのである。それをユーモラスな描写に変換させてしまうということは、必然的にスピルバーグの映画において、「死の質量は軽い」ということを証明してしまっているんではないか。

 『最後の聖戦』でも、インディが拳銃をぶっ放すと、銃弾が何人ものナチス兵たちを貫くという場面があった。その破壊力にキョトンとするインディの顔をインサートさせることで、笑いが生まれる。こういう演出をこともなげにしてしまうあたり、「スピルバーグって本当はものすごい人間嫌いなんじゃないか」という想いを抱いてしまうのである。

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