スピルバーグの演出から思想まで 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』の見どころを解説

『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』を解説

 スティーヴン・スピルバーグ監督、ハリソン・フォードそれぞれの代表作ともいえるアドベンチャー大作シリーズ、『インディ・ジョーンズ』。その第3作『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)が、久々に地上波放送される。タイトルのとおり、2008年に第4作が公開されるまでは『インディ・ジョーンズ』シリーズの区切りとされた一作で、シリーズ中でも高い評価を誇っている。

 冒頭で描かれるのは、インディアナ・ジョーンズの少年時代。演じるのは、『ジョーカー』(2019年)に主演したホアキン・フェニックスの兄であり、『スタンド・バイ・ミー』などの名作に数多く出演し、若くして命を落としたリヴァー・フェニックスだ。若きインディは、ボーイスカウトとして盗掘者たちから遺物を守ろうと、必死のアクションを繰り広げる。

 この短いエピソードのなかで、インディのトレードマークである帽子の由来や、鞭を武器にする経緯、そして蛇が大の苦手となってしまう理由などが、次々に明かされていく。その流れるようなアクションの持続は、スティーヴン・スピルバーグ演出の真骨頂だ。そして、インディをインディ足らしめる要素を振り返ることで、本作でインディアナ・ジョーンズの物語に一区切りをつけるという意図も伝わってくるのだ。

 ここでさらに明らかになるのは、インディにとって父親ヘンリーが大きな存在であることだ。博識な考古学者の生き方に憧れて、インディは同じ道を歩むことになる。だが、微妙に異なるのは、邪悪な敵は容赦なく打ち倒すという姿勢である。彼はそのことを、アウトローとの勝負における敗北によって学ぶこととなったのだ。そして、その次のシークエンスによって、清濁を併せ飲んだ存在に成長したインディは、ついに少年時代からの宿敵との争いに決着をつける。

 さらに考えさせられるのは、インディの存在が正義か否か、という問題である。私利私欲によって過去の遺物を手に入れようとする悪者たちの陰謀を阻止するのは素晴らしいことだが、研究目的だったり博物館に寄贈するためとはいえ、彼が世界の遺跡で遺物を手に入れてアメリカに持ち帰っているのは事実である。実際、国家間同士の力関係から、これまで先進国が後進国の歴史的に重要な遺物を奪ってきたことは、「文化財返還問題」として、国際的な問題となっている。

 その意味でインディは、ヒーローであり、一種の罪人であるともいえる。それでもインディが劇中で活躍できたのは、作品の時代設定を第二次世界大戦前に設定しているからだろう。本作でインディのルーツをはっきりとアウトローに見出しているのは、ヒーローの持つダークな側面をこれまで以上に明確化し、公開当時の文化財輸出規制が年々厳しくなる時代背景のなか、制作陣がバランスを取ったとも考えられる。

 さて、今回インディが狙うのは、最後の晩餐でキリストが飲んだ杯(さかずき)とも、キリストの血を受けた杯ともされる、聖遺物の一つ「聖杯(せいはい)」である。円卓の騎士がその行方を探したとされる伝承によると、その杯には奇跡の力が宿っているという。

 ヴェネチア、ザルツブルグ、ベルリン、そしてトルコのアレクサンドレッタ……。これまでのシリーズ同様、本作においても、まるで007のように世界を駆け巡っているインディ。その旅に同行することになる父親ヘンリー役に選ばれたのは、『007』シリーズで初代ジェームズ・ボンドを演じ、惜しくも2020年にこの世を去ったショーン・コネリーである。この趣向は、まさに『インディ・ジョーンズ』シリーズが『007』から多大な影響を受けているという自己言及であろう。

 ジェームズ・ボンドが希代のプレイボーイであるように、インディ親子も女性好きである。本作でも、インディはヴェネチアで案内役として現れた考古学者のエルザにちょっかいを出し始めるが、このエルザは『007 美しき獲物たち』(1985年)で「ボンドガール」として出演していたアリソン・ドゥーディなのである。そのときにジェームズ・ボンドを演じていたのはあくまでロジャー・ムーアではあるものの、本作の劇中でヘンリーが彼女と恋愛関係にあったことをインディーが知り、「えっ、パパも!?」「一夜だけの関係だよ」とやりとりするシーンの裏には、そんな背景があったのだ。

 このように、本作は『007』とのつながりを暗黙の了解としている観客へのサービスやユーモアが散りばめられている。観客の期待は、かつて「殺しのライセンス」を持っていた男を演じたショーン・コネリーの活躍だ。しかし、いかにも『007』シリーズのような敵の秘密基地で、ヘンリーがただただ右往左往し、ドジの連続を見せるところは、ほとんどコントであり、笑わされずにおれない。このあたりは、スピルバーグのイタズラ心が垣間見える点である。



インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる