『日曜の夜ぐらいは...』に感じる『想い出づくり。』の影響 山田太一を継承した岡田惠和

山田太一を継承した岡田惠和

 日曜夜22時から放送されている岡田惠和脚本のドラマ『日曜の夜ぐらいは...』(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、3人の女性の物語だ。

 ファミレスで働く岸田サチ(清野菜名)は、車椅子生活の母親・邦子(和久井映見)の代理でラジオ番組「エレキコミックのラジオ君」が主催するバスツアーに参加する。母親に頼まれて嫌々参加したサチだったが、タクシードライバーの野田翔子(岸井ゆきの)と、ちくわぶ工場で働く樋口若葉(生見愛瑠)と意気投合。3人はラジオネーム(翔子は「ケンタ」、若葉は「わぶちゃん」、母親の代理で参加したサチは「おだいりさま」)でお互いを呼び合い、楽しい時間を過ごすが、連絡先を交換せずに別れてしまう。

 本作は、ABCテレビが日曜22時に新設した新ドラマ枠の第1作。脚本はNHK連続テレビ小説『ひよっこ』や『ファイトソング』(TBS系)といった作品で知られる岡田惠和が担当している。

 岡田は90年代から活躍する脚本家で『南くんの恋人』(テレビ朝日系)や『ど根性ガエル』(日本テレビ系)のような漫画原作のファンタジーテイストの作品から、『彼女たちの時代』(フジテレビ系)や『連続ドラマW そして、生きる』(WOWOW)のようなリアルテイストのオリジナルドラマまで幅広く手掛けている。今回の『日曜の夜ぐらいは...』はリアルテイストで、現代の女性が抱える鬱屈を描いたシリアスな人間ドラマとなっている。

 第1話冒頭、サチたちの日常が空撮を交えた映像で丁寧に描かれる。寂れた団地で車椅子の母親と2人で暮らしながら郊外のファミレスで働くサチはどこか不機嫌そうだ。職場の人間関係は希薄で、友達も恋人もいない。

 それは翔子と若葉も同様で、家と仕事先の往復だけの日々を送っている。会話の節々から3人が家族との関係に問題を抱えていることが暗示されており、寂しい風景と役者の表情がもたらす雰囲気によって、3人の孤独がくっきりと浮かび上がる。

 そんな鬱屈した日々を描いた後だからこそ、バスツアーで3人が友達になっていく過程がとても心に沁みた。3人が仲良くなっていく中で楽しい会話劇が繰り広げられるのだが、他愛のないおしゃべりで盛り上がっている場面を書かせると岡田惠和は実に上手い。同時に凄いのが、この楽しい時間がこの瞬間にしか成立しないことを3人が悟っていることが、ふとした表情から伝わってくることだ。

 サチは、楽しいことがあると後できついことに耐えられなくなると言い、連絡先を交換しようという話になった時も、だんだん連絡が来なくなることに耐えられないと言って拒絶する。私たちが日々の暮らしの中でなんとなく抱いている寂しさが描かれていることに感心させられた。

 日本のテレビドラマには作家性の強い脚本家が書くオリジナル作品が多く、名もなき市井の人々が日常生活の中で感じている漠然とした不安や苛立ちを描くことを得意としている。その筆頭が山田太一脚本のドラマである。岡田は山田太一の影響を受けている脚本家で、この『日曜の夜ぐらいは...』には、山田太一脚本のドラマ『想い出づくり。』(TBS系)の影響が強く伺える。

 1981年に放送された本作は、結婚する前に「想い出」を作ろうとする20代前半の3人の女性の物語で、20代前半で結婚するのが当たり前とされた時代に女性が感じていた不安や苛立ちが描かれたリアルなドラマだった。本作は後のテレビドラマに大きな影響を与えており、1999年に岡田が執筆した『彼女たちの時代』も、平成版『想い出づくり。』と言えるドラマだった。昭和に書かれた『想い出づくり。』、平成に書かれた『彼女たちの時代』、そして令和に書かれた『日曜の夜ぐらいは...』を順番に観ると、女性を取り巻く日本社会の変化と、その時代時代の不安と苛立ちが理解できる。

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