木村拓哉が昔気質の“男らしい男”を演じる意義  異物感ゆえの『教場』シリーズの面白さ

異物感ゆえの『教場』シリーズの面白さ

 月9(フジテレビ系月曜21時枠)で放送されている『風間公親-教場0-』(以下、『教場0』)は、刑事指導官の風間公親(木村拓哉)が主人公の刑事ドラマだ。

 風間の仕事は、県警本部捜査に配属された新人刑事とバディになって、県警捜査に必要なスキルを教えること。警察仲間の間では“風間道場”と呼ばれている。風間の指導は厳しく、刑事としての資質がないと風間に判断されると、元の部署に追い返されてしまう。そのためバディとなる新人刑事は、風間の厳しい指導の元で事件を捜査していくのだが、「事件の謎」と「風間の真意」という二つの謎に直面することとなる。

 つまり本作は、刑事ドラマとしてのミステリー要素と、厳しい指導感の元で新人刑事が成長していく教師ものの要素が融合した、独自の刑事ドラマとなっている。新人刑事が次々と交代していくのも本作の面白さだ。第1話・第2話では、赤楚衛二が演じる元地域科の制服警官だった瓜原潤史が風間のバディとなった。第3話からは、新垣結衣が演じるシングルマザーの新人刑事・隼田聖子が新たなバディとなり、これから登場する新人刑事には白石麻衣、北村匠海、染谷将太が予定されている。

 脚本を担当しているのは『踊る大捜査線』(フジテレビ系)の君塚良一。『踊る大捜査線』では新人刑事の青島俊作(織田裕二)が主人公で、定年間際の老刑事の和久(いかりや長介)が脇役だったが、『教場』では新人刑事を見守る指導官の風間が物語の中心にいる。つまり視点は大人側にあるのだが、こういうドラマが月9で放送されていること自体が興味深い。

 長岡弘樹の小説『教場』シリーズ(小学館)を原作とする本作は、2020年にドラマ第1作となる『教場』が放送され、2021年に『教場II』が放送された。どちらもお正月に前後編のSPドラマとして放送されたのだが、警察学校の生徒がとても豪華で、『教場』では工藤阿須加、大島優子、川口春奈、林遣都、葵わかな、『教場II』では濱田岳、上白石萌歌、福原遥、目黒蓮、杉野遥亮、眞栄田郷敦といった若手実力派俳優が勢揃いしていた。

 物語は連作短編形式となっており、前後編合わせて4時間30分ほどの尺の中に4~5本のエピソードが詰め込まれている。各エピソードでは生徒たちの物語がミステリー形式で描かれ、各俳優に見せ場が用意されていた。何より風間を演じる木村拓哉と生徒役を演じる若手俳優が対峙した際に見せる、緊張感のある演技の衝突が見応えのあるものに仕上がっていた。警察学校から警察署に舞台が移った『教場0』では学園ドラマ色はだいぶ薄まったが、木村と若手俳優のぶつかり合いを描くというテイストはしっかりと引き継がれている。

 一方、木村拓哉にとっても『教場』は新境地と言える作品で、風間公親はこれまで木村が演じてきたどの役とも違う男だ。風間は白髪で左目が義眼という風貌で、何事も「自分の頭で考えろ」と促す多くを語らない職人気質の男で、一般企業なら、パワーハラスメントと受け止められてもおかしくない威圧的な指導をする。

 かつてなら高倉健が演じていたような硬派で寡黙な男だが、彼らが現役だった昭和の時点で、時代に取り残されていた男性像を、令和の時代に見せられるとは思わなかった。そもそも、高倉健的な昭和の男らしさを刷新し、コミュニケ-ションスキルを兼ね備えた新しい時代の男性のロールモデルを生み出し、平成を駆け抜けたのが、木村拓哉であり彼が所属していたSMAPであり、彼らの後に続いたジャニーズ事務所の男性アイドルグループだった。

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