【ネタバレあり】灰原哀というキャラクターのためにあった『名探偵コナン 黒鉄の魚影』
もっぱら立川譲監督と櫻井武晴脚本となれば、両者が前回タッグを組んだ『名探偵コナン ゼロの執行人』のように物理的なしがらみをも軽々と超越した派手な活劇になると予測していたが、まるで正反対の、キャラクター心理、とりわけ灰原哀をヒロインとして強くフォーカスした作り込みに徹していたことは想定外であった。物語が展開する場所が限定されていることもあり、大勢のキャラクターが登場する割には複雑さもなくシンプルに運ばれ、随所にこれまでの劇場版やテレビエピソードで見られた描写の反復やオマージュが用いられることで、しっかりとコア層へのアピールも事欠かない。
テレビシリーズ第345話「黒の組織と真っ向勝負 満月の夜の二元ミステリー」さながら、灰原を助けるために敵へ挑んでいく蘭、灰原が蘭に姉の明美の姿を重ねる姿。もちろん蘭はコナンの姿に新一を重ねるし、宮野志保とアメリカ時代に会っていた研究員の直美・アルジェントに、組織に潜入したCIAのキール、そして物語を遠くから徹底的に引っかき回すベルモット。中心人物としてフォーカスされた灰原に合わせるように、今回は特に女性キャラクターの描き込みに重点を置いた作品であった。そして何にせよ、純然と一本の映画として捉えた時に、口づけで終わる映画ほど美しいものはないのである。
■公開情報
『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』
全国東宝系にて公開中
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:立川譲
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ、沢村一樹ほか
製作:小学館、読売テレビ、日本テレビ、ShoPro、東宝、トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©︎2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp