『シャザム!~神々の怒り~』がうったえるヒーロー作品の本質 一方で体制変更の影響も?
また、凶悪なクリーチャーが続々登場するなど、ホラー映画や動画を撮っていたデヴィッド・F・サンドバーグ監督の持ち味が、より活かされているのも、本作の特徴といえよう。サンドバーグ監督は、“ponysmasher”「ポニー(小さな馬)をぶん殴る者」というユーザー名で、過激なFlashアニメを発表していた過去もあるが、そんな彼が、アメリカの少女たちの憧れだといわれる“ユニコーン”と子どもたちとの触れ合いを映し出すという、劇中の場面は、皮肉な面白さがある。
そんな見どころの少なくない本作だが、本国の興行成績が前作から大きく落ちてしまうこととなったのも事実。充実した作品であるにもかかわらず成績が下がったのには、いくつかの外的要因もあるだろうが、その理由の一端は、ワーナー・ブラザース(ワーナー・ブラザース・ディスカバリー)の新体制問題が影響していると見ることができる。
周知の通り、ワーナー・ブラザースは、「DCスタジオ」の新設を発表し、デヴィッド・ザスラフCEOのもと、ジェームズ・ガンとピーター・サフランが統括する新たな体制で、これからの同社のDCヒーロー大作映画の製作を進めていくとアナウンスしている。その決定のなかで、すでに撮影が終了していた『バットガール(原題)』が公開中止になり、『ワンダーウーマン』シリーズ第3作の企画は却下、スーパーマン役のヘンリー・カヴィルの降板が告げられるなど、ヒーローシリーズのファンにとってショッキングなニュースが続く事態となったのだ。
これによって、先頃公開された『ブラックアダム』の今後は白紙となり、様々なシリーズ作品の去就も不明確なものとなった。いくつかのヒーロー作品や、ヒーローを演じる俳優らが、新体制からの離脱を宣告されるというのは、まるでマーベル・スタジオの『アベンジャーズ』シリーズで、ヒーローたち一人ひとりの命運を左右したヴィラン、サノスとの戦いを想起させられるところだ。
もちろん、新体制後の作品を楽しみにしている観客も少なくないはずで、これまで以上の内容の作品を連発することができれば、この“痛み”にも意義があると考えられるかもしれない。だが、少なくとも本作『シャザム!~神々の怒り~』や、『ブラックアダム』のような映画は、新体制発足以前から企画・製作され、新体制発表後に公開されているのだ。この時期の作品は観客にとって、どのような気持ちで観たら良いのか、正直言って迷う部分があるのではないだろうか。なぜなら、新体制にともなう変更によって、ここで描かれた設定や伏線、世界観などが反故になる可能性があるのを承知しながら観ることを余儀なくされるからだ。
これまでもDCヒーロー映画の路線変更は、幾度も見られたのは確かだ。しかしそれは、あくまでも興行収入の結果を見て、人気や支持の高さ、あるいは低さを、会社やスタジオ側が考慮した上で方針を決定するというのが基本的な流れだったように思える。だが、この時期の作品がどれだけ観客に愛されようと、新体制に適合するかしないかが継続や設定などの引き継ぎの判断材料にされるというのならば、観客は蚊帳の外に置かれているような気分にならないだろうか。
スクリーン上に映っている作品自体は、観客に感情移入を促し、キャラクターの素晴らしさを強調し、今後のストーリーに期待をかける演出をおこなっている。その一方で、劇場から一歩外に出ると、新体制の考える新たな基準によって何の作品や俳優が残るのか、切られるのかの報道に、作品やキャラクターを好きになったファンほどハラハラさせられるのである。そんな作り手側の分裂した状態に翻弄されるというのは、観客にとって愉快な経験とは言いづらいはずなのだ。
『シャザム!~神々の怒り~』が、ヒーロー映画として、多くの観客が楽しめる出来となったことに間違いはない。それだけに、この変革期に乗り上げ、外的な事情に水を差されてしまったことについては、残念な思いにかられてしまうのだ。
■公開情報
『シャザム!~神々の怒り~』
全国公開中
監督:デヴィッド・F・サンドバーグ
出演:ザッカリー・リーヴァイ、アッシャー・エンジェル、ジャック・ディラン・グレイザー、ジャイモン・フンスー、レイチェル・ゼグラー、ルーシー・リュー、ヘレン・ミレン
配給:ワーナー・ブラザース映画
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