『シャザム!~神々の怒り~』北米首位も事前予測に及ばず DCユニバースの刷新が悪影響

『シャザム!』続編、北米首位も期待に及ばず

 DCユニバースの地殻変動が、まさか興行収入にまで影響を及ぼすことになろうとは。DC映画最新作『シャザム!~神々の怒り~』が3月17日に日米同時公開され、北米では週末興行収入ランキングのNo.1に輝いた。

 しかし首位とはいえ、その実情は必ずしもポジティブなものではない。本作は3月17日~20日の3日間で、北米4071館にて興行収入3050万ドルを記録。事前に予測されていた3500万~4000万ドルを大きく下回ったほか、前作『シャザム!』(2019年)のオープニング成績5350万ドルのおよそ57%にとどまった。

 この記録はDC映画としても、またスタジオ製作のスーパーヒーロー映画としても芳しくない滑り出しだ。前週第1位の『Scream VI(原題)』が4444万ドル、2週前の第1位である『クリード 過去の逆襲』が5837万ドルだったことを鑑みれば、今もっとも観客を集めやすい「スーパーヒーロー映画」というジャンルで3050万ドルという初動がいかに危機的なものであるかがよくわかる。

 本作は日本のほか海外78市場で劇場公開を迎えたが、海外の興行も同じく伸び悩んでいる。週末の海外興収は3500万ドルで、世界累計興収は6550万ドル。世界興収の事前予測は8500万ドルだったため、こちらにも手が届かなかった。巨大市場である中国で440万ドルしか稼げなかったことが大きな痛手だ。

 『シャザム!』シリーズはDC映画としては異色のファミリーコメディ作品で、今回は前作を経て身も心も成長したビリー・バットソンや家族の活躍を描くストーリー。ヴィランの女神3姉妹にはヘレン・ミレンとルーシー・リュー、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)のレイチェル・ゼグラーを起用し、映画としての規模も格段に大きくなった。

 スケールアップしての続編が実現したのは、ワーナー・ブラザース/DCコミックスがこのシリーズに大きな期待を込めていたためだ。ダークなイメージが強かったDC映画のイメージをライトに刷新した前作は、製作費1億ドルのところ、世界興収3億6608万ドルというスマッシュヒット。批評家や観客の評価も高かったのだ。

 それだけに予想外だったのは、DCユニバースの大幅刷新が急遽決まったことである。2022年4月に事業統合を経た新企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが設立されたのち、CEOのデヴィッド・ザスラフはワーナーが管理するIP(知的財産)/フランチャイズの見直しを求めた。

 その結果、DC作品を統括する「DCスタジオ」が新たに設立され、共同会長兼CEOには『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのジェームズ・ガンと映画プロデューサーのピーター・サフランが就任。ふたりのミッションは、従来さまざまな世界観で展開してきたDC原作の映画・ドラマをひとつのユニバースに統合することだった。これによってすべての企画が見直され、『ブラックアダム』(2022年)で示唆されたヘンリー・カヴィル演じるスーパーマンの復帰は撤回、ドウェイン・ジョンソン演じるブラックアダムも今後のユニバースからはひとまず外れることになっている。

 そして、2023年1月に発表された新DCユニバースの作品ラインナップには――まだ全体計画の一部だとは言われているものの――『シャザム!』第3作は含まれていなかった。もとより他のDC映画とは「良い意味で繋がっていない」のが前作『シャザム!』だったのだが、ガン&サフランの新体制はDC作品をすべて繋げていく姿勢を強調。もはや本シリーズの存続が危ういことは観客の目にも明らかになったのである。

 現在、スーパーヒーロー映画の興行は、公開直後に熱心なファンを劇場に集めるスタイルが中心となっている。逆に言えば、いかにファンの関心をあらかじめ惹きつけておくかが肝要だ。この点で言えば、DCユニバースの全面刷新が決まり、企画の見直しが入ったことで、『シャザム!~神々の怒り~』に対するファンの注目度は明らかに下がってしまった。これが興行収入に少なからぬ影響をもたらしたことはほぼ間違いないだろう。

 そもそもスーパーヒーロー映画において、ファミリーフレンドリーなコメディ作品は客足が伸びにくい傾向にある。そのうえで米Deadlineが指摘するのは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『アントマン&ワスプ:クアントマニア』が、ユニバース全体の新ヴィラン・征服者カーンを初登場させたのは大いに奏功したということだ。ファンにとっての作品の重要度を高めたことで、同作の初動成績は1億ドルを突破。その後の下落率を横に置くなら、ひとまずファンの関心を惹くことになったのである。その意味で言えば、ガン&サフランの「すべてを統一する」戦略は興行的にもきっと正しいのだろう。

 ただし『シャザム!』シリーズにも、過去には他のDC作品と繋がる計画が――少なくとも前作の時点では――あった。前作の製作総指揮にドウェイン・ジョンソンが名を連ねていたように、コミックでは宿敵同士のシャザムとブラックアダムは、いずれどこかのタイミングで対決するはずだったのである。しかし、のちにドウェインはスーパーマンとの対決を望み、『シャザム!』とは交わらない道を選んだ(ように見える)。ワーナーは一時、『ブラックアダム』を2022年10月、『シャザム!~神々の怒り~』を2022年12月に連続公開する計画を立てていたが、そこにも将来的なクロスオーバーを見据える狙いはあったのかもしれない。

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