『ブラッシュアップライフ』と視聴者を繋ぐ“平成J-POP” ノスタルジーをもたらす演出効果
今期、回を追うごとに話題を集め続けたテレビドラマといえば『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)だろう。来世で人間に生まれ変わるために同じ人生を何度もやり直すというユニークな題材、主演の安藤サクラをはじめとする役者陣のナチュラルな演技、ゆるい笑いと緻密さが同居したバカリズムによる巧みなシナリオなど、様々な魅力がヒットの要因だと考えられる。本稿はその中でも、視聴者とドラマを繋ぐ大きな役割を果たした劇中で流れる平成J-POPを掘り下げてみたい。
特徴的なのは、その回と強く結びついたエンディングテーマだ。主人公・麻美(安藤サクラ)が来世で“サバ”になるのを避けるべく人生3周目に突入した第3話の終わり際で中島みゆき「ファイト!」が流れる。<冷たい水の中をふるえながらのぼっていけ>と“小魚”に歌いかけるかのような選曲は、実にバカリズムらしい毒とユーモアがある。また人生3周目で友人・玲奈(黒木華)の不倫を阻止した第5話で流れるマキシマム ザ ホルモン「恋のメガラバ」は、人生2周目で不倫相手に激怒した玲奈がカラオケで歌っていた楽曲であり、回をまたいで楽しめる要素として音楽が効果的に用いられている。
このドラマの選曲で重要な点は“マニアックでない”ということだ。主人公と近い世代、もしくは平成のポップカルチャーにある程度親しんできた人ならば聞き馴染みのある楽曲が多く流れる。第1話でCrystal Kay「恋におちたら」を口ずさんだ後、麻美の仲良し3人組の1人・美穂(木南晴夏)が「これ何の主題歌だっけ?」と尋ねた後、麻美が「草彅(剛)くんのドラマ!」と答え、そして友人の夏希(夏帆)が「恋におちたら!」と交わしていた会話があった。こうした一幕にも象徴的だが『ブラッシュアップライフ』の劇中において音楽は別の思い出と結びついたものとして扱われている。
特定のアーティストを聴きこむ趣味がある人や、熱心にライブに通う習慣がある人であれば別だが、基本的に市井の人々にとっての音楽とは何らかの主題歌やカラオケソングであることが多いだろう。『ブラッシュアップライフ』に登場する音楽は日常で親しまれたヒットソングに特化しているからこそ、劇中で音楽が歌われたり、流れたりする度に視聴者の記憶も引き出されていく。そのノスタルジーこそがこのドラマに微笑ましさと親しみやすさを与えているのは間違いない。