『進撃の巨人』完結編前編は映画的スケールに アニメならではの圧巻の地鳴らし表現

『進撃の巨人』完結編前編は映画的スケールに

 駆逐してやるーーエレンの敵意は世界へと向けられた。3月3日深夜に放送されたTVアニメ『進撃の巨人』The Final Season完結編(前編)は、世界を救うという使命をもってエレンと対峙するアルミンやミカサ、ハンジらそれぞれの決意が描かれた回であり、本作の醍醐味でもあるアクションシーンが映画的スケールで描かれた。

 これまでなかなか描かれなかったエレンの真意が鮮明に描かれる。自らの中に未来を見ることができる「進撃の巨人」の能力があることを知り、独断でマーレを強襲して以降のエレンはアルミンやミカサら親しい友人に対しても、その内なる思いを明かしてはこなかった。エレンがパラディ島を守りたいがゆえの行動であることは彼らも知っていたが、それがただの憎悪によるものなのか、はたまたそう行動してしまう理由があるのか、内面を知ることはできなかったし、読者からもエレンの思いは表面だけしか知ることができなかった。

 だが、前編では難民キャンプに住むラムジーとハリルが登場。それは過去にマーレ大陸を訪れた際にエレンが出会った少年だった。エレンは未来の記憶でその少年たちを地鳴らしによって殺してしまうことを知りながらも、大人達から暴行を受けていたラムジーを助けるという行為に出る。いずれ未来に殺してしまうのだから助けても意味がないとエレンは葛藤を見せるが、エレンにはそう行動するしかできなかったのだ。そしてラムジーを助けたエレンは涙を流しながら謝るのだった。

「壁の外で人類が生きてると知って……オレはガッカリした」

 ここは未来で彼らを殺してしまうから涙を流しているのではない。もちろんその葛藤もあるとは思うが、壁の外に自由がないことを知ってしまったがゆえの涙だ。壁の外は自由でエレンが夢見た理想郷であるはずだった。しかし、そこにはパラディ島と同じように人間が住んでいて、同じような境遇に立たされており、なおかつその人類は自分たちに敵意を向けている。“自由”を嘱望してきたエレンにとってそれはひどく辛いものだったのではないか。エレンが誰にも明かせなかった本音がここで吐露されている。そしてエレンはそう感じてしまう自分に対しても「ガッカリしていた」。というよりも、自分の衝動を自分では抑えられないことを自覚してしまったがゆえの絶望だったのかもしれない。過去にマーレ大陸を調査兵団で訪れた際にエレンが単独行動し、ミカサに涙を流している場面を発見される場面があったが、ここでエレンの涙の真相が明らかとなったのだ。

 ラムジーたちがエレンの懺悔とともに巨人に踏み潰される場面。原作でも十分に残酷なシーンではあったが、アニメでは巨人によって踏み潰される場面がエレンの台詞と重なり合いながらシームレスに描かれており、より緊迫感のある演出となっていた。そしてエレンが空を飛び立ちながら自由を謳歌するシーンと入れ替わるように描かれるマーレ大陸の人々が殺戮されていく対照的なシーンは、エレンの自由の解釈のゆがみを強調していた。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる