『進撃の巨人』完結編前編は映画的スケールに アニメならではの圧巻の地鳴らし表現

『進撃の巨人』完結編前編は映画的スケールに

 アニメならではの演出といえばアルミンとアニの対話シーンも印象的だった。原作でも名シーンのひとつに数えられる場面だが、原作ではアルミンがアニの手首を掴んで引き戻すというシーンが、アニメではオリジナルの描写として手を握る描写に変わっていた。アルミンからアニへの告白という場面だが、細かなシークエンスによってアルミンのアニに対する思いが強く感じられる改変となっていた。

 前編のハイライトと言えるのがハンジの最期だろう。第1期からハンジはコミックリリーフ役を務めており、頭の切れる反面、巨人好きが行き過ぎてしまうことも多いキャラクターだった。そんなハンジがけじめをつけるため、アルミンを後継者に選び、地鳴らしを止めるべく孤軍奮闘立ち向かう。戦友でもあり良き理解者でもあるリヴァイに対してかけた「今最高にかっこつけたい気分なんだよ。このまま行かせてくれ」という言葉は実にハンジらしい。それに対してリヴァイは「心臓を捧げよ」とこれまで一度も言ったことのない言葉で激励する。このワンシーンで2人がお互いに信頼し合っていたことが伝わってきた。原作では1カットで描かれており、2人の心情が理解しにくかった場面だが、アニメでは間を置きながらしっかりと時間をかけて丁寧に描かれていたことに、作中においても重要な場面であることを表していた。

 最後に触れておかねばならないのは地鳴らしの描かれ方である。放送後、SNSでは「映画を見ているみたいだった」といったコメントが多く散見されたが、それは1時間ノンストップで描かれたということのほかに、アクションシーンの映画的なクオリティでの描写がある。例えば先述したハンジと巨人のバトルシーン。地鳴らしの表現は原作ではどうしても動きがつけにくいため、巨人が地面を均しながら歩いてくる絶望感が伝わりにくい。しかし、アニメでは巨人一体ごとに動きを付けながら地鳴らしを演出。改めてTVアニメ『進撃の巨人』は巨人の“動”の動きを強く意識していることに気付かされた。

 さらに始祖の巨人の本体へとアルミンたちが飛び降りていくシーンの立体機動装置のアニメーションはこれぞ『進撃の巨人』と言える作画のクオリティで、なめらかなモーションと奥行きのある背景の組み合わせによって、映画を見ているような錯覚に陥った。

 前編で描かれたのは始祖の巨人にアルミンたちが到着する場面まで。君のどこが自由なのかーーアルミンはエレンに再び問いかける。ここからは「天と地の戦い」が幕を開ける。そして気になるのはファルコが夢で見たというジークの記憶。後編の告知映像ではファルコの独白が収められている。おそらく後編の鍵となるのは間違いない。原作をすでに読んでいる身としては最終的な結末は知っているものの、アニメではクライマックスをどのような形で描ききるのか楽しみでしかたがない。後編の放送に向けてもう一度アニメを見返したいと思う。

■放送情報
『進撃の巨人』The Final Season完結編(後編)
2023年秋放送
『進撃の巨人』The Final Season完結編(前編)
各種配信サイトで配信中
原作:諫山創(別冊少年マガジン『進撃の巨人』講談社)
監督:林祐一郎
シリーズ構成:瀬古浩司
キャスト:
エレン・イェーガー:梶裕貴、ミカサ・アッカーマン:石川由依、アルミン・アルレルト:井上麻里奈、コニー・スプリンガー:下野紘 、ヒストリア・レイス:三上枝織、ジャン・キルシュタイン:谷山紀章、アニ・レオンハート:嶋村侑、ライナー・ブラウン:細谷佳正、ハンジ・ゾエ:朴璐美、リヴァイ・アッカーマン:神谷浩史、ジーク・イェーガー:子安武人、ファルコ・グライス:花江夏樹、ガビ・ブラウン:佐倉綾音、ピーク・フィンガー:沼倉愛美
キャラクターデザイン:岸友洋
総作画監督:新沼大祐、秋田学
演出チーフ:宍戸淳
エフェクト作画監督:酒井智史、古俣太一
色彩設計:大西慈
美術監督:根本邦明
画面設計:淡輪雄介
3DCG監督:奥納基、池田昴
撮影監督:浅川茂輝
編集:吉武将人
音響監督:三間雅文
音楽:KOHTA YAMAMOTO、澤野弘之
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
音響制作:テクノサウンド
アニメーションプロデューサー:川越恒
制作:MAPPA
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
公式サイト:https://shingeki.tv/final/
公式Twitter:@anime_shingeki

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる