貴司の歌集が重版出来! 『舞いあがれ!』が丁寧に描く、経過した時間と退職のプロセス

『舞いあがれ!』で丁寧に描かれる“退職”

 素敵なところといえば、通常のドラマではタイムジャンプが起きたらそのまま間の時間をなかったことにしがちなところを、『舞いあがれ!』がしっかりその間の時間に触れる点も良い。貴司がついに出せた歌集が重版出来したというリュー北條(川島潤哉)の知らせがそれを物語っている。ちなみに、歌集のタイトルが『デラシネ(根無し草)の日々』というのもセンスを感じさせる。史子(八木莉可子)も長山短歌賞を受賞していたことがわかり、貴司を巡ってややヘイトを集めそうな役柄だったにもかかわらず、“百年先も読まれる短歌”作りを目指す志を改めて提示させることで、彼女を応援したくなるキャラクターに転換させたところも巧みだ。

 ちゃんと時の流れが感じられるドラマだからこそ、人の成長も感じるし、全てが同じままでいられないことも理解できる。笠巻がぎっくり腰をしてしまったことをきっかけに、辞職することになってしまった。めぐみ曰く、しばらく前から考えていたことらしい。笠巻から多くを学んだ土屋(二宮星)は、まだ何か取りこぼしていないかと笠巻から学ぼうとするし、結城章(葵揚)は最初の頃、夜遊びをして眠そうに仕事をしていたのを笠巻から叱られていたのに、今ではすっかり飲みすぎた笠巻のことを心配するようになっていた。彼の緩やかな、しかし確かに月日の流れを感じさせる成長を印象付けた第98話。奥さんも亡くし、娘とも疎遠、孫と一緒に作りたいプラモデルの箱ばかりのある家でこれから1人で暮らしていく笠巻のことを考えると切なくて仕方ないのだが、腰のこともあるので(腰の怪我は本当に侮ってはいけない)、これをきっかけに彼と家族の距離が縮まることを願いたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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