『鬼滅の刃』ワールドツアー上映は“無限城”が見どころに 「刀鍛冶の里編」に感じた可能性

『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編に感じた可能性

 これまでの映画業界、アニメーション業界の常識を超える、興行的な快挙を成し遂げた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。日本映画の歴代興行収入トップの座につき、アメリカで週間興行成績1位にも輝くなど、世界中でフィーバーを巻き起こし、誰もが想像しなかった大きな記録をいくつも達成した。配信サービスの普及という追い風もあり、TVシリーズもあわせ、海外でも多くの熱狂的なファンを生み出し続けている。

 そんな『鬼滅の刃』は、TVシリーズ「刀鍛冶の里編」の放送、配信が今年4月からスタートする予定だ。世界のファンが、新しいエピソードを首を長くして待っているなか、TVシリーズ「遊郭編」のクライマックス部分とともに、「刀鍛冶の里編」第一話がフライングするかたちで上映が開始されている。この作品『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』は、日本ではもちろん、80以上の国と地域で順次公開されていくという。

 ここでは、そんな本作の内容を紹介しながら、注目したい点や、どのような観客が楽しめるのか、もしくは楽しめないのかを考えていきたい。

 最初にTVシリーズ「竈門炭治郎 立志編」のダイジェストムービーが上映され、そこに、劇場版、TVシリーズ「無限列車編」のダイジェストムービーが続く。その後、TVシリーズ「遊郭編」のクライマックスとなる、第十話、第十一話、そして「刀鍛冶の里編」第一話が映し出されるというのが、全体の構成である。

 そのなかで最も注目が集まるのは、もちろん「刀鍛冶の里編」第一話となるだろう。とくに初めてファンが観ることとなる新作部分では、今回の劇場版のタイトル通り、これまでベールに隠されていた、圧倒的な能力を持つ鬼たちのなかでも、さらに強力な「十二鬼月」のトップに立つ「上弦の鬼」たちが集結し、その全てが出揃うこととなる。さらには、それぞれの声が披露されることで、声優も明らかになった。アニメファンの多くは、ここが最も気になる部分だったのではないか。

 また、新たな戦いの舞台になるだろう刀鍛冶の里に、主人公・竈門炭治郎(かまど たんじろう)が到達し、そこでも初登場となるキャラクターが登場。すでにこれまでのエピソードで姿を見せていた、鬼殺隊最強の剣士「柱」のなかの、恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじ みつり)、霞柱・時透無一郎(ときとう むいちろう)が再び現れ、新たなドラマの始まりと、炭治郎や妹の禰󠄀豆子(ねずこ)、そして、里の人々を巻き込んだ、上弦の鬼たちとの熾烈なバトルを予感させる。

 コアなファンにとって嬉しい驚きがあったのは、上弦の鬼たちが集結する舞台「無限城」の描写ではないだろうか。TVシリーズにおいて、炭治郎や鬼殺隊の最大の敵であり、十二鬼月を操る鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)の本拠地となっている恐怖の空間「無限城」は、すでに姿を見せてはいたが、今回は無惨がひそかに城の大規模リフォームを施したのではないかと思うほど、そのスケールが格段にアップしている。

 3DCGを交えて表現されている「無限城」は、その名の通り、無限に堂々巡りが続く異空間だと考えられるが、ここでは、その内観だけでなく、外観までも映し出され、より大きなスケールで空間がループしているように思える。筆者が感じたのは、広大な空間ごとのループ構造が描画された、立体パズルゲーム『マニフォールド ガーデン』(※)に近い表現であるということだ。このように空間が広大に拡げられたことで、「無限城」という舞台の可能性もまた拡げられたのではないだろうか。

 筆者が『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開当時に、「『鬼滅の刃』大ヒットの理由は原作とスタジオの相性にあり? TVシリーズと劇場版の表現から探る」で書いたように、これまでアニメーション『鬼滅の刃』は、原作の内容を極力変えずに、その魅力をとにかく“ブースト”し、拡大していくことにアニメーション版ならではの本質があった。その意味で、この「無限城」の表現は、まさにその姿勢を象徴しているといえるだろう。

 さらに、今回は3DCGの利点をさらに活かした場面として、“上弦の参”・猗窩座(あかざ)と、ついに姿を見せた“上弦の壱”の鬼とが対立する描写が挙げられる。ここでは、複雑にカメラが動き、現在の日本のアニメーションの得意とする、2D表現と3D表現の融合を象徴する、ケレン味溢れる演出が提示される。3D表現の完成度は、もちろんピクサー・アニメーション・スタジオやウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオなど、アメリカのスタジオがはるかに前を進んでいるが、このようにハイブリッドした演出を用意することで、世界の最前線ともまだまだ戦えることが、このシーンからも分かるのではないか。

 さらには、ファンの間で「パワハラ会議」、「圧迫面接」などと称された、過去に無限城において下弦の鬼たちにぶつけた鬼舞辻無惨の苛立ちや性格の悪さも、ここでは、より緊張感あるスケールアップした演出で見せていて、大きな見どころとなっている。

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