『鬼滅の刃』ワールドツアー上映は“無限城”が見どころに 「刀鍛冶の里編」に感じた可能性

『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編に感じた可能性

 とはいえ、本作で鑑賞できる新作部分の内容は、4月にTVや配信で観ることができるというのも、確かなことだ。ポジティブに考えれば、シリーズの展開やキャラクターの活躍を先に楽しむことができるが、一話分、楽しみを前借りしてしまうというネガティブな考え方もあり得るだろう。そして今回のように、それを過去のエピソードと抱き合わせとして構成したものに対して、果たして通常の新作と変わらない劇場鑑賞料金を払うほどの価値があるのかが、問題になってくるのではないか。

 結論をいえば、それは観客の種類によるといえるだろう。今回、4Kにアップコンバートされたエピソードを、劇場の上映環境で楽しむことに価値を見出すことのできる観客や、いち早く新エピソードに触れたい観客、イベントとしてこの上映を楽しみたい観客、劇場でゲットできるかもしれない特典を目当てにしている観客にとっては、鑑賞料金に値する内容となっている。逆に、一度以上観ている内容を繰り返し鑑賞することに意義を感じられない観客、新しいエピソードを早く観なくても全然問題がないという観客や、それぞれのエピソード後のスタッフクレジットをも鑑賞しなければならない構成に、まだるっこしさをおぼえる観客は、今回の対象から微妙に外れることになると考えられる。

 だが逆に、前者のように、何度も何度も『鬼滅の刃』の内容を楽しみたいと思うような観客であれば、大きなスクリーンと音響設備で、「遊郭編」第十話、第十一話を再び鑑賞できる機会をこそ、待ち望んでいたところなのではないだろうか。とくに、“上弦の陸”との凄絶なバトルが展開する第十話では、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』でのバトル描写を超えるほどの“派手派手な”演出が続くため、これを劇場で観られなかったことにフラストレーションをおぼえていた観客が数多く存在するはずである。本作はまさに、そんな観客のために用意されているともいえるだろう。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』での、炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)と“上弦の参”・猗窩座とのバトルシーンの壮絶さや表現力には、多くの観客を驚かせる力があった。ややもすると、これが『鬼滅の刃』全体の内容的なピークになってしまうおそれもあった。だが、「遊郭編」の最終バトルは、TVシリーズながら、刹那のまばたきですら見逃してしまうほどのハイスピードなアニメーションが展開し、視聴者にさらなる驚きを与えることとなった。そうなれば、続く新エピソードでは、それをまた圧倒する表現が期待されることは必至だ。

 人気作品以上の存在となったアニメーション『鬼滅の刃』は、そんな世界中で待ち望むファンの期待に応えなければならない。せっかくフィーバーした熱狂状態を、できる限り維持するというビジネス上の戦略もあるのだろう、興味を繋ぎ止めるため早いスパンでの新エピソード供給にとりかかっているようだ。その結果として、「遊郭編」終了から、およそ1年と2カ月の期間で、このような、劇場版レベルといえる高いクオリティのTVシリーズを放送するというのは、スケジュール的に常軌を逸しているところがある。さらに未曾有のバトルシーンを用意しなければならないというプレッシャーが加わることで、スタッフの体調が心配になってくるところだ。

 とはいえ、そうやって制作されるエピソードへの熱量は、多くのファンによって、何度も鑑賞され、1秒、1秒を大事に味わうような性質の作品に育っていったからこそ、生み出されたものだともいえるだろう。

 “鬼滅人気”は、既存の映画ファンや評論家によって、否定される部分も少なくなかった。代表的な批判のなかに、「登場人物の思考をセリフにして語らせてしまうような、くどい演出に我慢ができない」という意見がある。だが一方で、それを決めつけるのには、“判断が早すぎる”という考え方もあるのではないか。映像作品は、極力映像自体で観客に情報を伝えることが高度な表現だというのが基本だという点は、確かにそうだろう。しかし、そこから外れた価値観で観客にうったえかける作品があってもよいのではないか。少なくとも、本シリーズが海外でエンターテインメントとして十二分に通用しているという点は認めなくてはならない。

 そもそも『鬼滅の刃』には、作中ではっきりとは明示されていない設定や、登場人物たちの心の動きや変遷、テーマになり得るような暗示なども、数多く隠されている。それは、作品を何度も味わい、考えることでしか、受け手側には伝わらない繊細な部分である。賛同するにせよ、否定するにせよ、そのような奥行きがあるという点を踏まえたうえで、作品を論じるべきではないだろうか。

 「刀鍛冶の里編」第一話を観るかぎり、4月よりスタートする、TVシリーズ『鬼滅の刃』「刀鍛冶の里編」は、「無限列車編」、「遊郭編」を、さらに凌駕するものになる可能性を垣間見せるものだった。本作を反芻しながら、作り手たちのチャレンジの結果がどのようなものになるのか、期待して待ちたいと思う。

参照

※ https://youtu.be/fsvDKq1VVL4

■公開情報
『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』
全国公開中
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、小西克幸、河西健吾、花澤香菜、関俊彦、置鮎龍太郎、宮野真守、石田彰、古川登志夫、鳥海浩輔、沢城みゆき、逢坂良太
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com/anime/
公式Twitter:https://twitter.com/kimetsu_off

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