『舞いあがれ!』もう一人のヒロイン 山下美月演じる久留美が幸せになれる未来を願って

『舞いあがれ!』久留美の幸せを願う

「ホンマに細かいところまで気ぃ付く子」
「しんどさも吹き飛ばしてくれる笑顔」

 婚約者である八神(中川大輔)が語るその魅力に深く頷いた。厳しい道のりも笑顔でたおやかに進む。舞(福原遥/幼少期:浅田芭路)の親友である久留美(山下美月/幼少期:大野さき)は、『舞いあがれ!』のもう一人のヒロインともいえる存在だ。

 小学3年生の時に同じクラスになった舞と久留美。いまや快活な雰囲気を携えている久留美だが、当時はクールでミステリアスなところがあり、原因不明の熱で休みがちな舞と同様にクラスでは少し浮いた存在だった。

 とはいえ、似た者同士すぐに仲良くなれるわけでもなく、お互いが子どもながらに気を遣った会話が印象に残っている。自分の思いを表現するのが苦手なところが舞と久留美はよく似ていて、だからこそ心を通わせることができたのだろう。

 しかし、舞の場合は五島での短くも濃密な日々をきっかけに、以前よりはるかに自己主張できるようになった。舞の繰り返す発熱の原因は、自分を心配してくれる母・めぐみ(永作博美)の顔色を窺いすぎることでかかる精神的なストレスが大部分を占めていたが、一方でめぐみがたくさん悩んだ末に舞を五島に連れてきてくれたから、舞は変わることができたともいえる。

 かたや幼い頃の久留美には、自分を気にかけてくれる大人が周りにいなかった。両親が離婚してから、久留美は父・佳晴(松尾諭)とふたり暮らし。男親でなおかつ口数の少ない不器用な佳晴には相談できなかったことも多いだろう。舞が東大阪に帰ってきたとき、久留美は“うさぎ殺し”のレッテルを貼られ、仲間外れにあっていた。そんな中で一人、寂しさと「自分がうさぎを死なせてしまったのかもしれない」という罪悪感を抱えていたのかと思うと胸が苦しくなる。

 佳晴はかつてラグビー実業団の名選手だったが怪我で失業。以降は職を転々としており、望月家はいつも経済的に不安定だった。それでも、久留美は絶対に誰かや環境のせいにしたりしない。看護専門学校に通っていた頃は、カフェでのアルバイト代で家計を支え、その上、成績優秀で授業料免除の特待生にもなった。

 自分の道を自分で切り開いていく芯の強い女の子。それだけ自分に厳しかったら、他人に対しても同じくらい厳しくなってもおかしくはないのに、久留美は自分の状況と他人の状況を切り離して考えられる思慮深さも持ち合わせているのがすごい。佳晴の辛さも分かるからどんなに苦労をかけられても完全には憎むことはできず、その尻を優しく叩き続ける。

 舞はその間、大学で青春を謳歌し、かと思えばパイロットになりたいと中退して航空学校に進んだ。もちろん、舞は舞で相当な努力をして自分の道を切り開いてきたものの、そこには家族の手厚いサポートがあったことも忘れてはならない。なりふり構わずに自分の夢を追える舞の状況は、久留美にとってはかなり羨ましいものであったはずだ。

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