中谷美紀の演技から滲み出る迫力 『BeRLiN』から『ギバーテイカー』までの変化を追う
デビュー当時の中谷にはオブジェのようなクールさと浮遊感があり、一言二言台詞を口にするだけで、その場の空気がガラッと変わってしまう独自の雰囲気を漂わせていた。そして、クールさと浮遊感を保ちながらも、彼女の演技は少しずつ変化していった。WOWOWでは『ギバーテイカー』の放送を記念し、中谷美紀の出演した映画やドラマが一挙放送された(WOWOWオンデマンドにて一部アーカイブ配信中)。日本アカデミー賞最優秀女優賞を受賞した2006年の映画『嫌われ松子の一生』を筆頭とした彼女のキャリアを網羅できる作品群となっており、長い年月をかけて女優として何を獲得してきたのかが、よく理解できた。
中でも注目は、2017年にWOWOWで放送された『連続ドラマW 東野圭吾「片想い」』と2015年の映画『繕い裁つ人』。そして初主演作となった1995年の映画『BeRLiN』。
『片想い』は東野圭吾の同名小説をドラマ化した作品で、大学のアメフト部で同窓生だった西脇哲朗(桐谷健太)たちが、マネージャーだった日浦美月(中谷美紀)が起こした事件を通して、それぞれの過去と向き合う姿を描いたドラマとなっている。中谷が演じる美月は、身体は女性だが心の中は男性という、性同一性障害に苦しむ難しい役だ。クラブのバーテンとして働いていた美月はホステスにつきまとう客を殺害してしまう。哲朗たちは美月を警察から匿まおうとするが、美月は他にも秘密も抱えているようで、やがて行方不明になる。
物語はミステリーだが、背後にあるのは性同一障害を抱える美月の生きづらさ。心と身体のズレに苦しむ美月を中谷は抑制されたトーンで演じており、深い哀しみが滲み出ている。
抑制された演技から滲み出る迫力は、彼女の芝居の一番の魅力だ。その武器がもっとも発揮されたのが、映画『繕い裁つ人』である。池辺葵の同名漫画を映画化した本作は、神戸にある南洋裁店の二代目店主・南市江(中谷美紀)と、彼女の服を愛している周囲の人々の交流を描いた物語だ。
祖母の教えを守り、一人ひとりの客のためのオーダーメイドにこだわる頑固親父のような職人気質を持つ市江にはカリスマ的な迫力がみなぎっている。物語は淡々と進み、市江の振る舞いも静かで淡々としているのだが、だからこそ隠しきれないオーラのような存在感が滲み出ていた。
最後に是非とも、観てもらいたいのが、謎のホテトル嬢・キョーコ(中谷美紀)の行方を追うテレビ番組の撮影クルーたちの姿を描いた映画『BeRLiN』。複数の人物の証言によってキョーコの輪郭が浮き上がっていくというドキュメンタリーテイストの物語となっており、独特の映像が印象に残る。何を考えているかわからないキョーコと当時の中谷が持っていたミステリアスな浮游感がマッチしているという意味でもドキュメンタリー的な作品で、1995年の中谷美紀が刻印された貴重な映画である。
■WOWOWオンデマンドについて
スマホやPCでも見られるWOWOWオンデマンドはBS視聴環境がなくても視聴可能。
さらに、無料トライアルも実施中
申し込み月内は料金なしで体験可能。
■放送・配信情報
『連続ドラマW ギバーテイカー』(全5話)
WOWOW、WOWOWオンデマンドにて、2023年1月22日(日)より毎週日曜22:00〜放送・配信
主演:中谷美紀、菊池風磨、深川麻衣、馬場ふみか、吉沢悠、斉藤由貴、池内博之
原作:すえのぶけいこ『ライフ2 ギバーテイカー』(講談社アフタヌーンKC)
脚本:小峯裕之
監督:鈴木浩介
音楽:林ゆうき、奥野大樹
チーフプロデューサー:青木泰憲
プロデューサー:小林祐介、黒沢淳、雫石瑞穂
制作協力:テレパック
製作著作:WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/givertaker/
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/178725
公式Twitter:@drama_wowow
『BeRLiN』
WOWOWオンデマンドにて配信中
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/content/117244
『繕い裁つ人』
WOWOWオンデマンドにて配信中
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/content/118568
『連続ドラマW 東野圭吾「片想い」』
WOWOWオンデマンドにて配信中
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/M20641