『ライオン・キング』は何が“超実写”だった? 実写とアニメの垣根を越えた撮影技法

『ライオン・キング』は何が“超実写”?

声の芝居の力を実感

『ライオン・キング』

 本作は、上述したように架空世界をカメラで撮影する意識で作り、リアルな質感だけでなく演出の感性においても実写的な作品と言える。しかし、同時にアニメーション的な演出要素もおおいにある。

 それは声の芝居だ。本作では動物が喋り歌う。1994年のアニメーション版と同じくミュージカル仕立ての作品だ。

 ある意味、この「超実写版」は1994年のアニメーション版以上に声の芝居の重要度が増している。なぜなら、本物の動物は人間ほどには表情筋が多くないので、顔だけでは豊かな喜怒哀楽を表現しきれないからだ。

 デフォルメされたアニメーションのキャラクターならば、動物に人間のような表情芝居をさせても問題はない。実際に1994年のアニメーション版の動物キャラクターたちは実に豊かな表情を見せる。

 だからと言って「超実写版」には豊かな喜怒哀楽が欠けているかというと、そんなことはない。「超実写版」は声だけの芝居がいかに観客に豊かな感情を想像させるかの良い例となっている。本作のキャラクターは、本物の動物よりは表情筋を増やしているのだろうが、やりすぎるとリアリティを損なう。身振りの芝居も豊かに作られているが、本物の動物から逸脱しすぎるわけにもいかない。だから、声の芝居によって感情表現を巧みに行っているのだ。

 日本のアニメでも、時に画面よりも声が豊かな喜怒哀楽を表現していることがある。本作の声に注目すると、アニメーション作品における声の芝居の大切さにも気づかされるだろう。本作を鑑賞する時、そんな声の芝居に注目するのも面白いはずだ。

 本作が挑んだ技術と制作スタイルは、今後の映像世界に新たな可能性を開くものだろう。実写やアニメーションを超えたかどうかよりも、『ライオン・キング』は、なにより従来の映像制作の常識を「超えた」のだ。

参照

※1 https://www.instagram.com/p/B0ZE0wFFxxd/
※2 https://moviewalker.jp/news/article/213565/

■放送情報
『ライオン・キング』
日本テレビ系にて、12月30日(金)21:00〜23:19
※地上波初放送・本編ノーカット ※放送枠25分拡大
監督:ジョン・ファヴロー
脚本:ジェフ・ナサンソン
声の出演:賀来賢人、江口洋介、佐藤二朗、亜生、門山葉子、熊谷俊輝、小林星蘭、大和田伸也
製作:ジョン・ファヴロー、ジェフリー・シルバー、カレン・ギルクリスト
製作総指揮:トム・ペイツマン、ジュリー・テイモア、トーマス・シューマッハ
撮影監督:キャレブ・デシャネル
プロダクション・デザイン:ジェームズ・チンランド
編集:マーク・リヴォルシー、アダム・ガーステル
アニメーションスーパーバイザー:アンドリュー・R・ジョーンズ
視覚効果スーパーバイザー:ロバート・レガート、アダム・ヴァルデス
視覚効果&アニメーション:MPC
オリジナル・ソング:ティム・ライス、エルトン・ジョン
オリジナル・スコア:ハンス・ジマー
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