『ライオン・キング』は何が“超実写”だった? 実写とアニメの垣根を越えた撮影技法
2019年に公開されたジョン・ファヴロー監督の『ライオン・キング』は、1994年に公開されたアニメーション版を「実写映画化」した作品だ。
しかし、本作は実写映画と断定してもよいものか、いささかためらいを感じる作品である。日本公開時のプロモーションでは「超実写」という言葉が使われた。「超」という漢字は「超える」という意味を含む。おそらくこの漢字を用いた動機は、本作は一般的な実写映画とアニメーション映画の両方の何かを「超える」ものだという印象を与えたかったのだろう。
本作は、本物にしか見えないサバンナを舞台に、本物と見紛うほどのリアルな質感で動物たちが躍動する姿を描いている。しかし一方で、動物たちが言葉を発し、歌い踊るので、明らかに本物の動物ではないことが一目瞭然でもある。
画面に映るほとんど全てのものが3DCGによって作成されたもので、本物の動物は一切使用されていない。その意味で本作は実写映画ではなく、アニメーション技術によって作られた作品と言える。
一方で、この映像の質感とセンスは実写映画のそれと思える部分がある。果たして、この映画はなんなのだろうか。
バーチャル世界でロケ撮影?
本作は、冒頭の1カットを除き全てが3DCGによって作成されている(※1)。アフリカの草原も砂漠も豊かな森も、登場する動物たちも全て現地で撮影されたものではない。
極めてリアルな質感を追求したアニメーション作品と言ってもいいかもしれない。しかし本作は、単純にCGアニメーターたちがコンピュータ上でフォトリアルなものを作ったというだけでは片付けられないユニークなスタイルで制作されている。
本作は画面に映る全てがCGで作成されたものでありながら、一方で「撮影」を行っているのである。どういうことか。ジョン・ファヴロー監督はこう語る。
「5〜6人のスタッフがゴーグルをつけてVRの中に入り、実写の映画と同じようにストーリーを表現するための最善策を考えていくんだ。ある程度決まったら仮映像を作ってVR上で最適のアングルを選んで撮影し、何度もテイクを繰り返す。方法もプロセスも、従来の実写映画制作と同じ完全な共同作業なんだ」(※2)
本作の撮影監督は、『パッション』(メル・ギブソン監督)や『ライトスタッフ』(フィリップ・カウフマン監督)など数々の実写映画を担当し、何度もアカデミー賞候補となった名カメラマン、キャレブ・デシャネルが担当している。実写映画を生業にしている撮影監督を起用していることからも推察できる通り、カメラで撮影する意識を持って、演出しているわけだ。
この制作方法は、ある意味で実写映画の「ロケ撮影」と言えるかもしれない。スタッフみんなでロケ地に出かけて撮影しているのだ。ただ、その出かけたロケ地がバーチャル世界だっただけである。
その意味で、本作はリアルとバーチャルの次元を「超えて」ロケ撮影を実行した作品だと言えるかもしれない。「超」を付けて語られてもおかしくない、「超える」要素がここにはあるのだ。
一般的に実写映画とは、カメラで撮影を行って現実にあるものを切り取り構成しているものを指す。本作の場合、架空のバーチャル・サバンナをカメラで切り取り構成したということになる。技術的観点でこれを実写と言えるのか、それともアニメーションに分類されるべきかは、正直決めようがないほど微妙な点を突いてきている。だが、それゆえに現実と虚構の区別も限りなく曖昧で、架空世界も1つの世界として行き来しながら生きる「メタバース時代」を象徴した作品と言える。
ちなみに、本作の世界はUnityというゲームエンジンを用いて作成されている。Unityと言えば、近年のゲーム制作に欠かせないものとなっており、人気ジャンルであるオープンワールドゲームの作成にも利用されている。
オープンワールドゲームは、ゲーム内の仮想世界を制限なく移動できる形式のゲームのこと。自由度が高いゆえに、その世界でプレイヤーたちは、自分たちの物語を生きることができる。この特徴を使って、オープンワールド内でプレイヤーを動かしストーリー性のある短編動画を作ってYouTubeなどで公開している人もいる。
『ライオン・キング』の制作態度は、実はそういうものに近いのではないかと思う。その意味では、実写とアニメーションの垣根だけでなくゲームとの垣根も超えているかもしれない。