2022年の年間ベスト企画
麦倉正樹の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 地上波ドラマだけにある「共時性」
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2022年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第12回の選者は、無類のドラマフリークであるライターの麦倉正樹。（編集部）
1．『鎌倉殿の13人』（NHK総合）
2．『エルピスー希望、あるいは災いー』（カンテレ・フジテレビ系）
3．『正直不動産』（NHK総合）
4．『おいハンサム!!』（東海テレビ・フジテレビ系）
5．『空白を満たしなさい』（NHK総合）
6．『あなたのブツが、ここに』（NHK総合）
7．『カナカナ』（NHK総合）
8．『個人差あります』（東海テレビ・フジテレビ系）
9．『ミステリと言う勿れ』（フジテレビ系）
10．『silent』（フジテレビ系）
いきなり個人的な話で恐縮だが、コロナ禍になってから、なぜか「歴史小説」ばかりを読み続けている。まあ、コロナ禍のあいだは……ぐらいの軽い気持ちだったのに、気がつけばもう3年近くなる。コロナ禍、依然として終わってないし。かくして、今やすっかり「歴史マン」と化した自分にとって『鎌倉殿の13人』は、その細部に至るまで最高に面白いドラマだった。三谷幸喜の脚本はもとより、のびのびと個性豊かにそれぞれの役を演じたキャスト陣、最先端の技術と機材を用いた美麗な映像ルック、そして凝りに凝った美術や衣装のこだわり。まさしく「大河ドラマ」でしかありえない贅沢を、1年にわたって存分に堪能させてもらった。
そして、ちょうど先日、最終回をリアルタイムで心臓バクバクさせながら観終えたばかりの『エルピスー希望、あるいは災いー』（以下、『エルピス』）。脚本家・渡辺あやとプロデューサー・佐野亜裕美が長い時間を掛けて生み出し、長澤まさみを主演に擁した本作は、「このままで良いはずがない」という明確な意思と、その心意気に突き動かされた人々による、とても気概に満ちたドラマだった。そのルックへのこだわりはもとより、何よりもエンターテインメントとして最高に面白かった。大根仁監督の言葉を借りるならば、映画にも配信ドラマにもない「数百万単位の人が同時に同じものを観ている」その「共時性」は、本当にスリリングだったし、地上波ドラマならではの面白味と可能性を再確認させてくれた。今年は、この2作が突出して面白かった。
続いて3位に選出した『正直不動産』の話をする前に……1位の『鎌倉殿の13人』を含め、今年は例年以上に、NHKのドラマに秀作が多かった。NHKのドラマ枠というと、金曜日から火曜日に移った「ドラマ10」、「土曜ドラマ」、そして2022年の4月に新設された夜の帯ドラマ枠「夜ドラ」などがあるけれど、1年を通してみると、いずれの枠にも気になる作品があった。まず、「ドラマ10」枠では、『正直不動産』が抜群に面白かった。ある日突然、ウソがつけない体質になってしまった不動産営業の男が、「正直営業」で顧客とライバル会社に立ち向かう、ある意味非常にわかりやすいコメディタッチの物語。しかし、その随所で開陳される不動産知識はもちろん、「地面師」など昨今の不動産にまつわる事件を取り扱うなど、毎回毎回非常に面白いドラマになっていた。何と言っても、主役を演じた山下智久が良かった。完全にハマり役だったのではないだろうか。ちなみに、『鎌倉殿の13人』で、常に胸をはだけた八田知家役を演じていた市原隼人が、主人公のライバル役を演じていた。
「土曜ドラマ」枠では、『エルピス』と同じ佐野亜裕美がプロデューサーを務めた野心作『17才の帝国』が注目を集めたけれど、個人的には平野啓一郎の小説を原作とした『空白を満たしなさい』が、強い印象を残している。同じく平野の小説を原作とした石川慶監督の映画『ある男』とも共通する「分人主義」的なテーマ（「自分」とは確固たる「個人」ではなく、対人関係ごとに生じる「自分」の総体であるという考え方）が、非常に色濃く出たドラマだったのではないだろうか。主演の柄本佑が良かったのはもちろん、阿部サダヲが非常に怖かった。
4月に新設された1話15分の「夜ドラ」については、当初やや懐疑的な思いで観ていたけれど、『あなたのブツが、ここに』には、胸のすくような思いを禁じ得なかった。思いのほか長期化・日常化した「コロナ禍」にあって、多くの作り手たちがそれを直接的に描くことをしなくなった今年、改めてそこに真正面から向き合い、オリジナルストーリーを作り上げたことは、大いに評価したい。あの気持ちは、忘れてはいけないのだ。そう言えば、このドラマでも、『エルピス』の村井こと岡部たかしが、いい味を出していた。
