2022年の年間ベスト企画
麦倉正樹の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 地上波ドラマだけにある「共時性」
さらに加えて言うならば、この枠で、個人的に妙にハマってしまったのは、5月から6月に掛けてオンエアされた『カナカナ』だった。元ヤンながらも純粋な心の持ち主である青年と、他人の心を読む能力を持った少女の交流。同時期に本格的な盛り上がりをみせていたアニメ『SPY×FAMILY』のアーニャの「能力」と重なる部分があると思いながら観ていたけれど、主人公である元ヤン青年を演じた眞栄田郷敦のキョトンとした愛らしさと健やかさが、なんとなくクセになって……まさかその後、『エルピス』の拓朗役として再会するとは、この頃は思っていなかったけれど。面白い役者だ。ちなみに、ドラマの舞台となった三崎港のある三浦市の雰囲気にも惹かれて、思わず足を運んでみたり……そこが『鎌倉殿の13人』に登場する「三浦氏」の地元だったからというのもあるのだけど。マグロが美味かった。
それ以外のものに目を向けてみると……そうだ、今年の初め頃、特に何かを期待するわけでもなく観始めた『おいハンサム!!』が、妙にツボにはまってしまった。毎週どこかしらのシーンで、必ず爆笑していた。伊藤理佐の漫画を、かなり自由かつ大胆に翻案した本作。吉田鋼太郎演じる父親とMEGUMI演じる母親、木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈演じる三姉妹の会話というか、その独特な「間」が本当に面白かった。そしてもう一本、こちらもそこまで期待せずに観始めた『個人差あります』。要は、ある日突然「異性化」してしまった夫と、その妻の顛末なのだけど、いわゆるジェンダーの問題を扱いながらも、徐々にツイストしていく展開に、やがて目が離せなくなった。ある種の「下世話さ」も描きつつ、形だけではなく生身の問題として、その当事者性を視聴者にやんわりと感じさせること。これはNHKではできない作りのドラマだと思ったし、個人的にはかなりの「発見」だった。
最後の2つは「映像ルック」という意味で、実にていねいに作られたドラマだと思ったので選出した。『ミステリと言う勿れ』に関しては、ちょうど『鎌倉殿の13人』の義経役として、菅田将暉が無双しているときだったこともあって……あまりにも対照的なその「静」の芝居を並行して眺めながら、そのギャップやふり幅も含めて、彼の役者としての底知れなさを、改めて感じた次第だった。『silent』については、若いスタッフたちによる「新しい感性」のようなものを確かに感じつつも、それが何かの「始まり」を意味するのか、あるいは「終わり」を意味するのか、正直なところ、いまだに判別しかねるところがある。いずれにせよ、こうして並べてみたら、2022年はNHKとフジテレビのみという、例年にないラインナップとなった。その成り立ち上、ある種のソーシャルイシューを真正面から扱うなど、冒険的な制作が可能であるNHKはともかく、それ以外をフジテレビの作品が占めたことは、たまたまなのか……それとも新たな「ドラマのフジテレビ」時代の到来なのか。それについては引き続き来年も、しっかり注目していきたいと思う。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』総集編(全4章)
NHK総合にて、12月29日(木)13:05~17:40 放送(中断ニュースあり)
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK