『ザ・トラベルナース』『祈りのカルテ』 医療ドラマはニーズ多様化と群像劇がトレンドに
地上波で医療ドラマが健闘している。『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)、『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系/以下『PICU』)、『祈りのカルテ ~研修医の謎解き診察記録~』(日本テレビ系/以下『祈りのカルテ』)は、主要キャストの熱演もあって視聴率も堅調に推移。ドラマ終盤にかけてさらなる盛り上がりが期待される。
今期の医療ドラマには共通点がある。医師が活躍する医療ドラマは、長らく連続ドラマの定番コンテンツとして親しまれてきたが、2022年は夏・秋の2期連続でゴールデン・プライム帯から姿を消し、トレンドの終焉も思わせた。しかし、3期ぶりに複数の作品が放送される今期のラインナップを見ると、2022年ならではの仕様にアップデートされていることがわかる。
すご腕で一匹狼の外科医が、経営の傾いた病院あるいは医療の手が回らない地域で、他の医師が匙を投げる不可能な手術を成功させる。その際に、病院内で不正を働く実力者や彼らと結びつく外部の権勢家もガン細胞のように一掃される。ややステレオタイプではあるが、医療ドラマの典型的なイメージだ。従来の医療ドラマは、一種の勧善懲悪やヒーローものに準じる作風があった。例外はあるものの、ゴッドハンドと呼ばれる名医による快刀乱麻の活躍は、病気を悪とみなす健康観も関係していただろう。
近年、医療現場の風景は大きく変わりつつある。超高齢化社会への突入を目前に控えて、持続可能な医療提供体制の確立が急務となっている。入院医療費の増大や周産期・高齢者医療の充実などの課題に対応するため、国は診療報酬を改定し、病院側も多様な施策を講じることで対応してきた。その結果、医療の主眼はQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に移り、患者側の多様なニーズに応えるため、介護・福祉や地域医療を含む多職種連携、チーム医療が促進されてきた。
ドラマの世界にもこの変化は訪れており、その徴候は数年前から表れていた。シーズン2も制作された『コウノドリ』(TBS系)は周産期医療、『アライブ がん専門医のカルテ』(フジテレビ系)はガン治療を専門とする腫瘍内科が舞台で、医療ドラマの定番である外科とICUではない点に特徴がある。また『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』シリーズ(フジテレビ系/以下『ラジハ』)や『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系/以下『アンサング・シンデレラ)では、放射線技師や病院薬剤師など従来脇役だった職種を主人公に据えているが、これは様々な職種が連携して治療に当たる現行制度に沿うものだ。