今年屈指の青春映画『線は、僕を描く』 苦戦の裏に「若者の実写離れ」?

『線は、僕を描く』苦戦の理由は?

 先週末の動員ランキングは、川原礫によるライトノベルをアニメーション化したシリーズ最新作『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』が、土日2日間で動員19万9000人、興収3億2300万円をあげて初登場1位となった。昨年10月に公開された前作『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の土日2日間の興収は3億4900万円だったので、先行IMAX上映分を加えるとほぼ横並び。同作のファンダムの熱が減じていないことを証明したかたちだ。

 これによって『ONE PIECE FILM RED』は公開から12週目にして初めて首位から転落。79日間の動員は1250万5805人、興収173億5574万7850円。現時点で国内歴代興収9位、その上の8位には『ハウルの動く城』(2004年)の196.0億円、7位には『もののけ姫』(1997年)の201.8億円とスタジオジブリ作品が200億円前後の興収で並んでいるが、さすがにそれは射程圏外か。いずれにせよ、2022年度の興収ナンバー1作品の座は揺るがないだろう。

 さて、ランキングで意外だったのは初登場5位に終わった『線は、僕を描く』の思わぬ不調だ。ヒットを確実視していたわけではないが、それにしても公開2週目の『カラダ探し』はともかく、公開3週目の『呪い返し師—塩子誕生』よりも下回るとは。『線は、僕を描く』のオープニング3日間の動員7万3431人、興収9760万1460円。同じ東宝配給、小泉徳宏監督の『ちはやふる』1作目『ちはやふる –上の句-』(2016年)のオープニング2日間の約55%。監督作としては前作にあたる『ちはやふる』3作目『ちはやふる -結び-』(2018年)のオープニング2日間の約38%。当時の東宝配給作品は土曜公開だったので、日数が1日増えた上でこの水準の数字に止まっているのは、なかなか厳しい。

 配給と監督が同じというだけで、あるいはその監督の前作というだけで、単純に数字を比較すべきではないという見方もあるだろう。また、シリーズもの(『ちはやふる』2作目は1作目の1ヶ月後に公開された)と単体の作品を比べること、あるいは人気コミック原作ものと小説原作ものを比べることがフェアではないという意見もあるかもしれない。しかし、『線は、僕を描く』は製作スタッフもキャスト以外はほぼ『ちはやふる』から踏襲されていて、作風もその延長線上にある。キャストだって、今でこそ『ちはやふる』には豪華キャストが勢揃いしているように思えるが、1作目が公開された2016年時点ではまだまだキャリアの浅いキャストが多かった。今回の『線は、僕を描く』が引けをとるような要素はほとんどない。また、個人的な意見を付け加えるなら、『線は、僕を描く』は文句なしに素晴らしかった『ちはやふる』からさらに輪をかけて見事な仕上がりの作品となっている。

 理由が思いつくとしたら、『ちはやふる –上の句-』の公開から約6年半の間に、中心的な観客層として想定されているティーンの観客層の嗜好が、実写作品離れを起こしているのではないかということ。これは今回の『線は、僕を描く』だけでなく、ここ数年、実写のシリーズ作品の伸び悩みなどにもしばしば感じてきたことだ。ちなみに、『ちはやふる』1作目も決してスタートから良かった作品ではなく、口コミやネットの評判で広がっていった作品だった。『線は、僕を描く』も作品内容をふまえれば、『ちはやふる』と同じような「線を描く」可能性は十分にあるはずだ。

■公開情報
映画『線は、僕を描く』
全国公開中
出演:横浜流星、清原果耶、細田佳央太、河合優実、矢島健一、夙川アトム、井上想良、富田靖子、江口洋介、三浦友和
原作:砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社文庫)
監督:小泉徳宏
脚本:片岡翔、小泉徳宏
企画・プロデューサー:北島直明
音楽:横山克
配給:東宝
©︎砥上裕將/講談社 ©︎2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
公式サイト:senboku-movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/senboku_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/senboku_movie/

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