恋愛ドラマは冬に映える? 『silent』『最愛』『大恋愛~僕を忘れる君と』など良作多し
だが、冬の寒さはこの世界の残酷さを象徴するものでもある。降り積もる雪は、美しくも冷たく厳しい。聴力を失った想が何も伝えずに紬のもとから姿を消して8年。やっとの思いで再会した2人の間には、あの愛しい言葉たちは降り積もらない。とりとめのない会話を楽しみ、愛しい関係を構築していったときに放たれた「うるさい」の言葉が、もはや関係継続は不可能だという拒絶の手話となって返ってくる。そして、その手話の「うるさい」の意味さえも紬には届かないのも悲しい。
凍ってしまった氷のように頑なになった想の心。対して、冬場に差し込んだ陽の光のごとく温かな湊斗の優しさに紬が癒やされたのも納得だ。食べられなくなってしまったときに唯一受け入れられたコンポタ(コーンポタージュ)、心を落ち着かせたいときに検索するかわいい動物たちの動画……。じんわりとふんわりと湊斗と交わした言葉たちもまた紬にとっては大切な積み重ねられたものだった。
「今、好きなのは恋人の湊斗。想のことはもう好きじゃない」。そう言葉にするものの、紬の表情や行動は湊斗を落ち着かせなくする。湊斗と同棲するための部屋探しはなかなか進まないにもかかわらず、想と会話をしたいと手話教室へすぐに向かい、「会って話したい」とアグレッシブにLINEを返す。そして、取り付けた約束の日には新しいスカートで向かうのだ。8年ぶりに会話ができる会いたかった人と、約3年一緒に過ごしてきた人とでは熱量が変わるのは当然かもしれない。だが、「それ新しいね、スカート」と、小さな変化に気づくほど湊斗の細かな視線が、今も紬に対して片想いをしているかのようで胸が痛むのだ。
想の別れたい理由は「好きな人ができた」ではなく「好きな人がいる」だった。その好きな人は新しく出会った誰かではなく、紬だったこと。紬が想を忘れようとした結果、好きな音楽のことまで忘れてしまっていたこと。些細なエピソードに見えて、実は物語を大きく動かす心情描写になっていたりする。〈言葉はまるで雪の結晶〉とは、Official髭男dismが歌う本作の主題歌「Subtitle」の一節だ。まさにこのドラマは雪の結晶を観察するかのように、一つひとつの言葉を、そしてやりとりを考察したくなる作品だ。まだ物語は始まったばかり。秋の夜長に、この繊細で洗練されたラブストーリーをじっくりと味わっていきたい。
■放送情報
木曜劇場『silent』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
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