『ポプテピピック』が日本アニメの可能性を広げる? 恐るべきバランス感覚に注目
声優の演技だけではなく、映像表現も卓越している。今作は基本としてはアニメスタジオのスペースネコカンパニー・神風動画が制作しているが、さらに各パートを他のアニメスタジオや個人作家に外注もしている。その結果、多種多様なアニメ表現が楽しめる。
一言でアニメ、といっても、その表現は幅広い。日本で一般的な手描きアニメや、海外でも主流のCGアニメの他にも、人形などを使ったストップモーションアニメ、あるいは手描きであっても鉛筆だけを使うなど画材の変化でも、その映像の印象は大きく異なる。そして本作は、そのスタイルを1つに固定化することなく、各種の多様なアニメーション表現を披露している。
筆者が驚いたのが第1期第8話のサンドアートを用いたアニメーションだ。サンドアートとは白い画用紙などの上に砂を撒き、絵を描くという手法だ。そのサンドアートをアニメーションとして成立させるという発想だけでなく、花咲かじいさんをモチーフとした物語と映像の美しさに、思わず心を奪われた。
また第2期第2話は青山敏之によるピクサーのOPを思わせるCGアニメだけではなく、90年代の男児向けロボットアニメである勇者シリーズを思わせる映像表現も駆使している。こちらは制作がサンライズ、そしてパートの監督には大張正己、キャラクターデザインにことぶきつかさと、90年代ごろのアニメ作品を愛する人々ならば垂涎もののスタッフを揃えた、見応えのある映像を披露した。現在ロボットはCGで制作する作品も多い中で、手書きの懐かしい表現を現代に見られたことで喜んだ方も多いのではないだろうか。
その他にもゲーム画面を用いたり、あるいは紙芝居をそのまま流したり、実写の声優を映像に組み込むなどの、これは本当にアニメーションと言えるのだろうか? と思われるような表現もある。
だが、世界のアニメーション表現を見ると、とても幅広い。機会があれば海外の作品も含めた映画祭の短編アニメーションのコンペディションを観てほしい。『ポプテピピック』も比較にならないほど、理解の難しい抽象的な作品もあれば、このような表現が世の中にあるのかと目から鱗が落ちるようなアニメーション表現もある。
そういった世界規模のアニメーションと比較すると、日本アニメは形は整っているのだが、アニメーション表現というものを少し狭く認識しすぎなのかもしれない。もちろん、個人制作の短編コンペディションの作品と長編商業アニメを単純に比較はできない。しかし日本では商業化やヒットが難しいと思われていた、人形を用いたストップモーションアニメーション表現が『PUI PUI モルカー』として大ヒットを記録している。
そういった特徴的なアニメーション表現を行っている人々の実験場として『ポプテピピック』は活用されている。その実験は30分の真面目なストーリーを持つ物語では難しいだろう。しかし15分の短編、しかもコーナー分けがなされており、1分や2分でも許されるとなったらどうだろうか。途端にできる表現の幅が一気に広がる上に、本作は不条理ギャグとして受け止められているので、どのような挑戦的な表現があっても怒る人はいないと言えるだろう。
もちろん、なんでも許されているわけではなく、守るべき公序良俗はある中で、どこまでの挑戦を許すのかという見極めはとても重要だが、今のところ最低限のラインは超えておらず、全てギャグとして受け止められる。このバランス感覚も注目すべき部分といえよう。
日本アニメは良くも悪くも手描きアニメというイメージが強くなってきている。アニメ作品の制作本数が増えていってはいるものの、もっと幅を効かせて、新しい表現を模索する道も必要なのではないだろうか。そして、その道を商業という形で提示しているのが『ポプテピピック』だ。もちろん、“クソアニメ”としてゲラゲラと笑うのもいい。だが時にはその映像表現の多様さにも注目すると、新しい発見があるだろう。
■放送情報
『ポプテピピック』
TOKYO MX:毎週土曜25:30~
S11:毎週土曜25:30~
MBS:毎週火曜27:00~
BS日テレ:毎週火曜23:30~
HTB:毎週火曜25:55~
AT-X:毎週土曜25:30~
原作:大川ぶくぶ (竹書房『まんがライフWIN』)
企画・プロデュース:キングレコード
シリーズ構成・シリーズディレクター:青木純 (スペースネコカンパニー)
音響監督:鐘江徹
音響効果:小山恭正
音響制作:グロービジョン
音楽:吟 (BUSTED ROSE)
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:スペースネコカンパニー・神風動画
製作:キングレコード
©大川ぶくぶ/竹書房・キングレコード
公式サイト:http://hoshiiro.jp/