『一橋桐子の犯罪日記』はタイトルとは正反対のドラマ? 松坂慶子がはまり役の予感

『一橋桐子』はタイトルとは正反対のドラマ?

 人生100年時代。生まれてから死ぬまでにかかるお金は、一人当たり2億円とも3億円とも言われている。さまざまなライフイベントがある中でも“人生の三大資金”と言われる住宅資金、教育資金、老後資金に加え、怪我や病気などのリスクに備えた資金も必要。お金にまつわる不安は、億万長者でもない限り一生付きまとうと言ってもいい。

 そんなお金をテーマにした小説でベストセラー作家となったのが、原田ひ香だ。20代、50代、70代の女性たちが人生の節目を迎え、お金の問題に直面する姿を描いた彼女の家族小説『三千円の使いかた』(中央公論新社)は累計60万部を突破。「今より少し、お金がほしい」人たちの生活に根ざす切実な願いと未来への希望を描いた『財布は踊る』(新潮社)も大きな反響を呼んでいる。

 そして、その原田ひ香が老後の資金と孤独死の問題に切り込んだ同名小説を原作とするドラマ『一橋桐子の犯罪日記』(NHK総合)が10月8日より放送開始となる。本作は、76歳の主人公・一橋桐子(松坂慶子)が先行きへの不安から、とある決断を下し、行動へと移すさまをユーモラスに映し出す“終活青春グラフィティ”だ。

 桐子は年金とバイトの収入で暮らす老女。夫も子供もいない、生活も決して楽じゃない。そんな桐子にとっての唯一の希望は、同居していた親友の知子(由紀さおり)。そんな知子を病で失い、悲しみに打ちひしがれる桐子の表情とともに物語は幕を開ける。それだけでも切ないのに、次々と「もうやめて!」と言いたくなるような悲劇が彼女を襲うのだった。

 2019年、金融庁が発表した「老後20〜30年間で約1300万円〜2000万円が不足する」という試算、いわゆる“老後2000万問題”が話題となった。住むところ、食べるものに困ることなく天寿を全うし、最期を誰かに看取ってもらう。そんな些細な願いすらも贅沢と言われかねない昨今。誰にも頼ることができず、衣住食を保障してくれる刑務所にたどり着く老人の存在がノンフィクション作家・斎藤充功の『ルポ 老人受刑者』(中央公論新社)にも描かれている。

 本作の主人公である桐子もテレビで見た、ある逮捕者の「楽になるため刑務所に入りたかった」という供述に心奪われ、“ムショ活”に励むことになる一人だ。実年齢より6歳年上の桐子を演じることになったのは松坂慶子。年齢を重ねても美しく、ハツラツとしている松坂が平凡な老女に変身している。そのたどたどしい一挙手一投足が不器用でお人好しな桐子の人柄を見事に表していて、見ていられないくらいの悲壮感が漂う。一方で、ずっと目で追っていると、クスッと笑えるようなチャーミングさも浮かび上がってくる。危なっかしくて、一度関われば誰もが放っておけなくなる魅力を持ったヒロインだ。

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