杉野遥亮、芳根京子、岸井ゆきの 主役級に成長した『バイプレイヤーズ』若手俳優たち
“脇役”と言われたらどこか居心地が悪いけれど、頭の中で“バイプレイヤー”という言葉に変換したら途端に誇らしげな気持ちになる。それは、ドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)シリーズのおかげかもしれない。
円熟した演技で作品に深みを与えながら、メインとなる役者を一段と輝かせる。そんなバイプレイヤーたちにスポットを当てた本シリーズは、2017年1月から深夜にひっそりと始まった。しかし、遠藤憲一、大杉漣さん、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研という超大物俳優6人を主演に据えた作品が注目を浴びないわけはなく、評判が評判を呼び、業界内視聴率は30%とも言われている。(※)
その後、ドラマの第2弾・第3弾が放送され、2021年4月には劇場版『バイプレイヤーズ 〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』が公開。第3弾と劇場版には総勢100人の俳優が出演しており、宇梶剛士、甲本雅裕、西村まさ彦といった日本の映画・ドラマを支えてきた名脇役俳優のみならず、“新世代のバイプレイヤー”とも言える20代から30代の実力派俳優が本人役で登場した。だが、その中には脇役に留まらず、主演を務めるようになった元・バイプレイヤーも。特にこの1年での活躍がめざましかった若手俳優たちを紹介する。
芳根京子
完全にバイプレイヤーから卒業したと思われるのが芳根京子だ。『バイプレイヤーズ』第3シリーズへの出演後、ドラマと映画合わせて全8作に出演しており、そのうち4作で主演、もしくはヒロイン役に抜擢されている。
『真犯人フラグ』は芳根京子のもの 主演に加え“3番手”でも輝き放つ役者に進化
『真犯人フラグ』(日本テレビ系)の公式サイトで毎週投票が行われている「一番怪しいのは誰!? #みんなの真犯人フラグ」なる企画で、…
『真犯人フラグ』(日本テレビ系)でも厳密にはヒロインとは言えないが、妻子失踪がきっかけで、日本中から疑惑の目を向けられながらも、真実を暴いていく主人公をサポートする優秀な部下の瑞穂役で活躍。考察ドラマとして人気を博した本作にふさわしく、最後まで真犯人として疑いの目を向けられ続けた。それは芳根が過去作でひと癖もふた癖もある役柄でインパクトを残してきたからという理由も一つあるのではないだろうか。
映画『ファーストラヴ』では、父親を殺害したアナウンサー志望の女子大生・環菜を熱演。北川景子演じる臨床心理士との面接室でのシーンでは混沌を極める環菜の言動の数々に思わず心を侵食されそうになった。
『Arc アーク』でも不老不死が実現した世界で若い姿のまま100年以上生きる女性を体現した芳根の一挙手一投足から生まれる芸術美は、どこか外国映画の様相を帯びる作品の要になっていたように思う。その作品に閉じ込められてしまいそうな憑依型の演技が芳根の得意とするところだ。
一方で、芳根は『俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?』(テレビ朝日系)の和泉や、『オールドルーキー』(TBS系)の塔子など、特徴はあれどいわゆるオーソドックスなヒロインにも憑依できる。大々的な見せ場はなくとも、その役が心に抱える傷や葛藤を何気ない一コマで表出させ目を奪う。芳根が次々と主演作を獲得しているのは積み上げてきた信頼と実績の証。これからも大いに秀でた才能をドラマや映画で発揮してほしい。
岸井ゆきの
次に今年30歳の誕生日を迎えた岸井ゆきの。あどけない少女のようでいて、大人の女性としての色気もまとう彼女は脇役であっても一際目をひく。台詞がなくともそこに居るだけで何かを訴えてくるような存在感があるからだ。
「わかってほしいわけじゃないけど、伝えたいことは確かにある。そのもどかしさを抱えながら黙ってしまうことが、私はとても多い。わかってもらいたい気持ちが先走って、相手に気持ちを押しつけてしまうほうが、いやだからだ」
これは今年7月に発売された岸井のフォトエッセイ『余白』(NHK出版)で本人が綴った言葉だ。岸井のように伝えたいことはあっても、あえて押し黙るという人は意外と多い。彼女が演じてきたキャラクターもそうだ。
『恋せぬふたり』(NHK総合)での他者に恋愛感情も性的欲求も抱かない“アロマンティック・アセクシュアル”の咲子も、映画『やがて海へと届く』での突然いなくなった親友の影を引きずる真奈も、声にならない痛みを抱えていた。ともすれば、見逃されてしまいそうな人間の感情を岸井は丁寧に拾い上げる役者だと思う。そんな彼女の映画界での活躍はめざましく、今年だけで5作品でメインの役を張っており、ムロツヨシや香取慎吾といった少々癖のある俳優相手に物怖じすることなく自分の個性をぶつけている。
10月16日からはヒロインを演じるTBS日曜劇場『アトムの童』もスタート。岸井が演じるヒロインの海は、老舗玩具メーカーのひとり娘。崖っぷちに立たされた会社を救うべく、大企業を相手取り、山﨑賢人演じる主人公らと競争の激しいゲーム業界で再起を図る。巨大資本VSものづくりへの情熱といういかにも日曜劇場らしいこの作品で岸井が見せる重厚な演技に期待したい。