『容疑者Xの献身』“劇場版ムーブメント”の中で生まれた異色作 西谷弘監督の演出が光る

『容疑者Xの献身』西谷弘監督の巧妙な演出

 その反面、シネマスコープの横長の画面を有効に使った表現は随所に多用される。映画冒頭で湯川が「運動量とエネルギーの保存則」の説明をするシーンから超電動加速器を用いた実験場のシーンに移る際に画面が少しずつ拡張していくことで、テレビドラマからの進化を明確にあらわす。本筋の物語がはじまって25分以上経って内海と草薙が湯川を訪ねるシーンでは、大学の教室特有の広い黒板が極めてダイナミックに画面内に現れる。

 さらには作中の重要なシーンとなる花岡靖子(松雪泰子)と石神が電話で会話をするシーンではスプリットスクリーンを用いることで、両者の距離を視覚化させる。そしてクライマックス直前に描かれる、研究室での湯川と内海とのやり取りを2分ほどの長回しで見せるのである。こうしたさりげない部分に、映画であることの醍醐味を費やすところがドラマ版から引き続いてメガホンを取った西谷弘の演出の巧妙さであろう。

 その西谷演出は、映画次作の『真夏の方程式』でさらに極まれり。テレビドラマの劇場版の常識とマンネリを容易く打ち破ったこの『ガリレオ』シリーズは、現在公開中の最新作『沈黙のパレード』でも健在である。奇しくもコロナ禍に始まった新たな劇場版ムーブメントの最中ではあるが、そのなかに含むのも憚られるほど、より独立した“映画シリーズ”として進化を遂げているのである。

■放送情報
『容疑者Xの献身』
フジテレビ系にて、9月24日(土)21:00~23:25放送
出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、松雪泰子、堤真一ほか
監督:西谷弘
原作:東野圭吾
©2008 フジテレビジョン アミューズ S・D・P FNS27

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