カツセマサヒコが語る『ワンナイト・モーニング』 “あの朝”の記憶に触れる物語

カツセが語る『ワンナイト・モーニング』

 もちろん、原作から引き継がれている普遍的なテーマに変わりはない。登場人物は容易には打ち明けられない悩みを抱えており、現代社会に適応できずに弱り果てたり、自分自身に振り回されたりしている。

 そんな彼女ら/彼らが「ワンナイト」(つまり、付き合ってはいない状況で、二人きりの夜を過ごすこと)に至り、自分の弱さを異性に開示するシーンは、原作・ドラマともに特有の緊張感と解放感を生み出しており、「どうか幸せになってほしい」と願う気持ちが自然と溢れてくる。「ワンナイト」と聞くとどうしてもインスタントで軽率なイメージを抱くが、その実態は意外にもプラトニックなものであり、弱さや傷を開示できる場所という意味では、数少ない心安らげる時間を表しているのかもしれない。

 そういった特性もあり、本作はシンプルなラブストーリーと違って、恋愛感情だけで説明できる展開が少ない。当然、体だけの関係として割り切れるものでもなく、登場人物は曖昧で複雑な感情を視聴者と一緒に育んでいくことになる。そんな難しい役どころを演じるのは、上杉柊平や伊藤万理華、青木柚など、確かな個性と技術を持った若き俳優たちだ。斬新な映像表現にも負けない演技力が光っていた。

 最後に、物語のキーポイントとなる朝食についても触れたい。「梅干しのおにぎり」「ハニートースト」「そうめん」「牛丼」といった、原作どおりの簡素なメニューが物語を彩る。映像作品ならでは見せ方として注目したいのは、これらのメニューが「ワンナイト」後だととりわけ美味しそうに見える、という点だ。人間だけでなく、あらゆる動物において、食事のシーンというのは捉え方次第でかなりグロテスクな描写になる。異物を体内に流し込むわけだから当然とも言えるが、今作ではその行為が登場人物の関係や心情そのものを表すように描かれていることにも注目したい。

 鑑賞を終えたあと、昔付き合っていた人がよく口ずさんでいた『今夜はブギー・バッグ』と、その人と一度だけ行った小さなスペイン料理店を思い出していた。過去の恋を、ふと思い出させるドラマなのかもしれない。

 魔法が解けた翌朝は、いつもどこか寂しくて、でも心は穏やかに晴れている。しばらく経験していない“あの朝”の記憶に触れる原作漫画とドラマの二つの『ワンナイト・モーニング』、気になった方はぜひ召し上がってみていただきたい。

■放送・配信情報
『WOWOWオリジナルドラマ ワンナイト・モーニング』(全8話・オムニバス)
WOWOWにて放送・配信中
【放送:WOWOWプライム】毎週金曜23:00
【配信:WOWOWオンデマンド】全話配信中
出演:上杉柊平、芋生悠、望月歩、伊藤万理華、栁俊太郎、浅川梨奈、河合優実、藤原樹(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)、前田旺志郎、池田朱那、川島海荷、水沢林太郎、石橋菜津美、水間ロン、青木柚、筧美和子ほか
原作:奥山ケニチ『ワンナイト・モーニング』(少年画報社刊) 
脚本:蛭田直美
監督・撮影:柿本ケンサク
音楽:愛印
製作:WOWOW、ダブル・フィールド
©︎WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/onenight/ 
公式Instagram:instagram.com/onenight_morning_wowow/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる