初登場9位『NOPE/ノープ』 ジョーダン・ピール作品人気の内外格差と配給会社の責務

ジョーダン・ピール作品人気の内外格差

 先週末の動員ランキングは土日2日間で動員83万2000人、興収12億0900万円と、第3弾来場者特典の後押しもあってなんと前週との興収比148%という凄まじい数字を叩きだした『ONE PIECE FILM RED』が、2位の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』に6倍以上の差をつけてぶっちぎりの4週連続1位に。8月28日までの23日間の動員は820万234人、興収は114億5405万370円。『トップガン マーヴェリック』(8月23日までの累計興収118億594万6530円)を超えるのも時間の問題で今年公開作品の暫定ナンバーワンを確実に。本年度(昨年12月公開作品を含む)公開作としても、いよいよ『劇場版 呪術廻戦 0』(最終興収137.5億円)超えが現実味を帯びてきた。

 今週注目したいのは、9位に初登場したジョーダン・ピール監督の『NOPE/ノープ』。オープニング3日間の動員は7万183人、興収は1億837万300円。IMAXスクリーンを含む全国221スクリーンで公開された洋画メジャー(東宝東和)配給の作品としては、はっきりと物足りない数字だが、同監督のデビュー作『ゲット・アウト』(2017年)の日本での最終興収が1億4400万円、2作目の『アス』(2019年)の日本での最終興収がそこから100万円だけ上乗せされた1億4500万円、つまりこれでも前作、前々作を超える見込みではあるのだ。

 ジョーダン・ピールは近年デビューした監督としてはほとんど唯一の、(フランチャイズ作品ではない)オリジナル作品で世界的ヒットを連発している存在だ。『ゲット・アウト』のアメリカ国内興収は1億7604万ドル(約246億円)、『アス』のアメリカ国内興収は1億7508万ドル(約245億円)。奇しくも1作目と2作目の興収ほぼ同じというところだけは日本も変わらないのだが、これまでの2作品のマーケット規模は北米の約170分の1と、極端に海外(特に北米)と日本でその人気に格差がある作家だ。

 ジョーダン・ピールの映画作品は一貫して黒人が主人公で、その作品テーマにおいても人種問題を直接的、ないしは婉曲的に描き続けている。そして、(ここが重要なのだが)現在の北米の映画マーケットでは、そのような作家性を持つ監督が新作を公開すれば毎回初登場1位になるわけだ。もし日本での過去の興収だけを根拠に、万が一、今後ジョーダン・ピールのような作家の新作の日本公開を見送るようなことがあれば、日本の観客は世界の映画界の最前線から取り残され、ますます海外と日本のマーケットの乖離は進み、それは長期的に外国映画興行全体に影響を及ぼしていくことだろう(というか、その成れの果てが現在の実写外国映画を取り巻く状況とも言える)。

 YouTube番組「MOVIE DRIVER」最新回でも語ったように、『NOPE/ノープ』は全編の約40%がIMAXカメラで撮影された作品であるにもかかわらず、今回、大きな経費のかかるIMAXでのマスコミ試写は一回も行われなかった。公開されてからも、『ONE PIECE FILM RED』のIMAXスクリーンでの上映に多くの回が割かれていることで、ごく一部の劇場を除くとIMAXスクリーンでの上映は1日1回朝の回のみ、みたいなことになってしまっている。上記のようにリアルな数字を導き出すと、IMAXスクリーンでの上映があることだけでもありがたいと思わなくてはいけないのかもしれないし、それどころか(約1ヶ月遅れとはいえ)日本公開されるだけでもありがたいと思わなくてはいけないのかもしれない。しかし、ジョーダン・ピールのような世界的人気を誇る気鋭の若手監督(といっても43歳だが)が配信作品ではなくまだ劇場向けに映画を撮り続けている限り、それを国内の劇場に届け続け、作品のプロモーションを展開するのは、日本の配給会社の責務でもあるはずだ。

「宇野維正のMOVIE DRIVER」第7回『NOPE/ノープ』

■公開情報
『NOPE/ノープ』
全国公開中
監督・脚本:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアほか
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
製作:イアン・クーパー、ジョーダン・ピール
配給:東宝東和
©︎2021 UNIVERSAL STUDIOS

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