井之脇海の再々登場が『ちむどんどん』にもたらしたもの 暢子が“かげ”になることを願って
注目すべきは、最近、出て来た信用金庫の坂田(安井順平)だ。彼はなにかと落ち着きがない。第99話でも、遅刻してきて、いきなり我慢できずトイレに行く。こういう人物に眉をしかめる人もいると思うが、暢子は全然気にしない。もっとも彼は仕事は真面目にやっているようで、あたふたしていても嫌われない得なタイプなのであろう。仕事ができることが第一だが、きっちり真面目であってほしい信用金庫の人があたふたしていてもいいではないかという提案にも見える。
やんばるでは歌子(上白石萌歌)がいつまでたっても弱虫で、他人の前ではあがってうまく歌えない。歌が好きで仕事にできたらと思うけれど、がんばれないままアイドル的にデビューできる年齢は過ぎてしまっている。彼女は地元の民謡を歌っていこうと目標を定めてはいるが道のりは遠い。でも、要領よく、客あしらいできる人だけが、芸能をやる資格があるのだろうか。うまくできないけれど、表現したい気持ちのある人だっているのではないか。
良子(川口春奈)は、地元の野菜を学校給食に取り入れたいと考えるが、持ち前の勝ち気な言動で、周囲に理解されにくい。根回しをうまくするようなことができないひじょうに不器用な、でも、彼女なりに一生懸命。それに気づいてくれる人がいることで、良子のアイデアが埋もれずに済む。
要領のいい人たちで回りがちなこの世の中だが、誤解されがちな人や、うまく自己アピールできない人、失敗ばかりする人たちだってたくさんいる。賢秀、矢作、歌子、良子……とうまくいかない人たちに辛抱強く寛容な『ちむどんどん』には荒削りながら誰もが等しく寛容でありたいという願いを感じとることができる。
第19週で、博夫(山田裕貴)が賢秀のやらかしによって暢子が失った200万円を肩代わりするとき、自分たちが結婚できたのは賢秀の「おかげ」と言っていた。20週では、智が暢子の披露宴に出て彼女の気持ちを諦められたのは歌子の「おかげ」と言う。「俺が、俺がの『我』を捨てて、おかげ、おかげの『げ』で生きる」というような言葉がある。これまで暢子は「俺が俺が」で来たけれど、誰かのおかげで彼女は生かされてきた。彼女の唯我独尊を大目に見てくれた人たちのおかげで彼女はお店も子供も持てるのだ。
俺が俺がではなく、誰かの「かげ」になってお互いが支え合う。そんな世界を暢子たちはこれから作ることができるのか。
それにしたって賢秀や矢作のお金がらみの行為はいかがなものかとは思うけれど。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK