『ジュラシック・ワールド』『海上48hours』など モンスターパニック映画の市場に迫る

なぜパニック映画は作られ続けるのか

 当時28歳だったスピルバーグが、せっかく作ったサメロボットがほとんど機能しない、脚本も完成していないまま撮影を開始するなど、トラブル続きの中で撮った『ジョーズ』のヒットを受けて、もともとパニック映画を制作してきたB級映画の帝王、ロジャー・コーマンも飛びついて制作されたのが、ジョー・ダンテと組んだ『ピラニア』(1978年)である。

 ロジャー・コーマンという人物は、映画を観るというより、カップルたちがイチャイチャすることが目的とされていたドライブインシアター用の映画として、とにかくストーリーよりも、お色気やバイレンス表現を詰め込んでいたクリエイターである。そのコーマンが『ジョーズ』にお色気要素をプラスした『ピラニア』を世に放ったことで、パニック映画といえば、ビキニのお色気ガールが襲われるのが定番となり、自然とサメ映画、パニック映画で犠牲になるのはリア充、パリピが相場となることが多くなっていった。

 ここまでくると、元々あった差別意識や社会風刺色は薄れ、ひとつのジャンルとして確立されていったことがわかる。

 ホラーと同様に低予算で儲かるジャンルということで、若手クリエイターたちがパニック映画を作るようになり、しばらくは『グリズリー』(1976年)や『オルカ』(1977年)、『アリゲーター』(1980年)のように、手を変え、品を変え、パニック映画が定期的に作られていたが、90年代に突入して、さらに大きな分岐点が訪れる。

 それがまたしてもスピルバーグの『ジュラシック・パーク』(1993年)である。同作が画期的だったのは、初めて生物をCGで表現することの可能性を示したことだ。

『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

 そこから数々の恐竜映画や『アナコンダ』(1997年)、『ディープ・ブルー』(1999年)、『U.M.A レイク・プラシッド』(1999年)などのパニック映画が量産体制に入った。それに加え、CGも少し手を加えるだけで使い回しもできるということで、シリーズ化がされる作品も多くなり、世界中にアニマル/モンスターパニック映画が溢れるようになっていったのだ。

 現在公開中の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』と『海上48hours ―悪夢のバカンス―』は、制作規模も違えば、公開劇場数も全く異なる作品ではあるが、派生元はどちらもスピルバーグ、もっと遡ると『ゴジラ』に繋がってくるということだ。

 パニック映画ではないが、ティム・バートン作品も『ゴジラ』や『ウルトラマン』といった、円谷作品の影響を多く受けている。日本でも2014年に六本木ヒルズで開催された「ティム・バートンの世界」では、彼がレストランの紙ナプキンに書いた落書きの展示スペースがあり、そこにはバルタン星人や『ウルトラマンガイア』に登場したガンQなどが描かれていた。『シザーハンズ』(1990年)のモデルも実はバルタン星人だったのかもしれない。ギレルモ・デル・トロが『パシフィック・リム』(2013年)の中で“カイジュウ”という表現を使っているのも円谷作品へのオマージュだ。

 他にもハリウッドで活躍する多くの映画人たちが、円谷作品を意識している。つまり何が言いたいかというと、現在のパニック映画の市場は円谷作品とスティーヴン・スピルバーグ、そしてロジャー・コーマンが原型に成り立っているということだ。

■公開情報
『海上48hours ―悪夢のバカンス―』
新宿バルト9ほか全国公開中
出演:ホリー・アール、ジャック・トゥルーマン、キャサリン・ハネイ、マラキ・プラー=ラッチマン、トーマス・フリン
監督:ジェームズ・ナン
脚本:ニック・ソルトリーズ
配給:ギャガ
原題:Shark Bait/2022年/イギリス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/85分/字幕翻訳:牧野琴子
(c)Vitality Jetski Limited 2021
公式サイト:gaga.ne.jp/48h/
公式Twitter:@kaijou48h

『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』
全国公開中
監督:コリン・トレボロウ
脚本:エミリー・カーマイケル、コリン・トレボロウ
出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サム・ニール、ディワンダ・ワイズ、マムドゥ・アチー、BD・ウォン、オマール・シー、イザベラ・サーモン、キャンベル・スコット、ジャスティス・スミス、スコット・ヘイズ、ディーチェン・ラックマン、ダニエラ・ピネダ
キャラクター原案:マイケル・クライトン
ストーリー原案:デレク・コノリー、コリン・トレヴォロウ
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、アレクサンドラ・ダービシャー、コリン・トレヴォロウ
配給:東宝東和
(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.jurassicworld.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/jurassicworld.movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/jurassicworldjp

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