『ブライアン・ウィルソン』監督が語るビーチ・ボーイズの魅力 独自の撮影方法に至るまで
亡きテイラー・ホーキンスへの思い
――(笑)。ここで改めて監督のビーチ・ボーイズ体験を教えてもらえますでしょうか。
ウィルソン:初めてビーチ・ボーイズに出会ったのは9歳の時でした。父が亡くなったばかりで、彼のレコードコレクションをずっと観ていたんです。その中に、シボレーコルベットを前に立っている5人組の男性を見つけて、すごくクールだと感じました。レコードをかけてみると、それは「シャット・ダウン」という曲でした。そこから深掘りしていくうちに、若い世代のビーチ・ボーイズファンがつながっていく気持ちがよくわかりました。特に大きな影響を受けたのが「イン・マイ・ルーム」です。当時幼かった私には、それが自分のために書かれた曲のように感じました。子供の頃は自分の部屋が自分の世界で、そのことを誰もわかってくれないのに、なぜかブライアン・ウィルソンが理解してくれているのです。その時初めて、ビーチ・ボーイズの楽曲に車と女の子以外に語られていることがあると気づきました。そこからコンサートにも何度も行きましたし、こうしてブライアン・ウィルソンのストーリーを語ることができるのは私にとってこの上ない光栄です。
――続いてお聞きしたいのは、本作にも出演しているテイラー・ホーキンスについてです。惜しくも2022年3月に亡くなってしまいましたが、改めて撮影時の思い出や、今の思いを聞かせてください。
ウィルソン:本当に心が砕かれる思いです。テイラーとは「映画がもうすぐ公開されるよ」と12月に話したばかりでした。そして、彼が何より先に「編集で私は切られなかったか?」と聞いたので、私は笑って「君が出ているシーンが、私の一番のお気に入りだよ」という話をしました。すごく優しい人で、ブライアンに対しても、ビーチ・ボーイズの音楽に対しても、とてもパッションを持って臨んでくれていました。あらゆる意味で彼が最も共感していたのがブライアンの弟、デニス・ウィルソンだったという話も聞きました。デニスも若くして亡くなってしまっているので、今振り返るととても悲しい気持ちになります。テイラーは本当に素晴らしい人間で、彼が映画に参加してくれたことを嬉しく思います。
――本当に残念なことでしたが、この映画に彼の姿が収められたのはすごく貴重なことであったように思います。
ウィルソン:ありがとうございます。テイラーが亡くなってから行う初めてのインタビューなので、彼の話をしていると本当に心が昂ってしまいます。
――最後に、完成した映画を観てブライアンから言われた感想があれば教えてください。
ウィルソン:ブライアンに観せるときは、とてもナーバスになりました。本当に怖かったです。ブライアンは映画が完成してまず最初に、取材期間を振り返って「とても楽しい時間だったね」と言いました。そして、映画について「素晴らしい音楽がたくさん入っているね」と言いました。私は、ブライアンが自分自身の音楽を好きと言えることがとても素晴らしいことだと思っています。多くのアーティストはクールぶってしまいますが、彼は素直に「これはいい曲だ」と表現するのです。なので、私はそれを映画を気に入ったと言ってくれたんだと解釈しています。
■公開情報
『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』
全国公開中
出演:ブライアン・ウィルソン、ジェイソン・ファイン、ブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョン、ニック・ジョナス、リンダ・ペリー、ドン・ウォズ、ジェイコブ・ディラン、テイラー・ホーキンス、グスターボ・ドゥダメル、アル・ジャーディン、ジム・ジェームス、ボブ・ゴーディオ
監督:ブレント・ウィルソン
製作:ティム・ヘディントン、テリサ・スティール・ペイジ、ブレント・ウィルソン
製作総指揮:ブライアン・ウィルソン、メリンダ・ウィルソン、ジェイソン・ファイン
共同プロデューサー:ジャン・ジーフェルス
配給:パルコ ユニバーサル映画
2021年/アメリカ/英語/93分
(c)2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/brian-wilson