「トラコ」「アタル」「カホコ」「ミタ」 遊川和彦が“スーパーキャラ”で描く物語の共通点
『家政婦のミタ』以降、遊川作品には『過保護のカホコ』(日本テレビ系)、『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)、『同期のサクラ』(日本テレビ系)、『となりのチカラ』(テレビ朝日系)などのように、物語のシチュエーションに主人公の名前をカタカナにして加えたタイトルが非常に多くなる。非常にキャッチーでわかりやすい。
あえて普通の(というより格好悪い)男・中越チカラ(松本潤)を主人公にした『となりのチカラ』を除いた作品は、いずれも「スーパーキャラもの」と言えるだろう。ライターでドラマ評論家の成馬零一はさらにこれらの作品を「ダークヒロインもの」と「ピュア系ヒロインもの」に分類している。無機質で人間離れした考え方や能力を持つ主人公が前者、純粋で正義感が強いゆえにまわりと衝突してしまう主人公が後者だ。(カタカナ名前ではないが)『女王の教室』、『家政婦のミタ』、『家庭教師のトラコ』は前者にあたり、『過保護のカホコ』の根本加穂子(高畑充希)、『同期のサクラ』の北野サクラ(高畑充希)は後者にあたる。『ハケン占い師アタル』の的場中(杉咲花)は両者を行き来し、(こちらもカタカナ名前ではないが)『35歳の少女』(日本テレビ系)の時岡望美(柴咲コウ)は前者から後者に変容する。
このようなスーパーキャラを使って遊川が描こうとしているのは、社会に横たわるさまざまな問題だ。創作の際に大切にしていることとして、遊川は「怒り」を挙げている(※2)。「問題意識が何もない、別に自分だけ良ければいいやと思ってる人は書けない。なんでこんなに不公平なんだよとか、なんでこんなにうまくいかないんだよとか、なんでこんなに愛されないんだよとか、そういうことが人間の根っこになっている。そういうものに対して敏感になろうというか」。
キャッチーなタイトル、インパクトの強い主人公を通して描こうとしているのは、社会の不公平さや、いつも見過ごされそうになる社会問題、愛を失ってしまった人たちの苦しみなどだ。それらの問題をスーパーキャラの主人公が登場して解決するだけでなく、逆に主人公が抱えている心の闇をまわりが助けることもある。
『家庭教師のトラコ』には、ダークヒロイン的なスーパーキャラ、子どもと家庭を取り巻く現実の諸問題、社会の不公平さ、明かされない主人公の心の闇など、『女王の教室』以降の遊川和彦作品の総決算のように見える。これからどのような物語が紡がれていくのか楽しみだ。
参照
※1. 『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)
※2. 『イントロ』(日本テレビ系)2020年10月4日放送
■放送情報
『家庭教師のトラコ』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:橋本愛、中村蒼、美村里江、細田佳央太、板谷由夏、鈴木保奈美、加藤柚凪、阿久津慶人
脚本:遊川和彦
チーフプロデューサー:田中宏史、石尾純
プロデューサー:大平太、田上リサ(AX-ON)
演出:伊藤彰記、岩本仁志
制作協力:AX-ON
制作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
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