『初恋の悪魔』馬淵悠日と『最高の離婚』濱崎光生のリンク 坂元裕二が書く男の抱える屈折

『初恋の悪魔』坂元裕二が書く男の抱える屈折

 自宅会議の後、真夜中の公園で摘木星砂(松岡茉優)から警察以外に「他になりたいものはあったのか?」と聞かれて「動物園の飼育係です」と答える馬淵。ここで、『最高の離婚』(フジテレビ系)の濱崎光生(永山瑛太)を思い出した方も多かったのではないかと思うが、馬淵のような男の抱える屈折を坂元裕二はずっと書いてきた。

 実は馬淵は、兄から何度も電話をもらっていた。しかし兄にコンプレックスを抱いていた馬淵は電話に出ようとせず、いつも留守電にしていた。殉職する直前にも兄から電話があり、最後の電話に出られなかったことをずっと悔いていた。そのことを星砂に話すと「電話、出な」と言われ、馬淵はスマホ越しに死んだ兄に語りかける。

 「届かない手紙」もまた、坂元裕二が繰り返し描いてきたモチーフだ。手紙に描かれた言葉は「言うことができなかった本当の気持ち」で、今回はスマ―トフォンを通して死んだ兄に語りかけるという形で描かれた。星砂に自分の心情を告白した後、兄への気持ちを馬淵が語る一人芝居は、仲野太賀の熱演もあり、実に感動的な場面となっている。

 星砂に背中を押されて、兄への気持ちを吐き出したことで、少し気持ちがラクになる馬淵。普通のドラマなら、仲間同士の結束が固まり、良かったと思える終わり方だ。しかし、エンドロールで星砂が、馬淵の兄のスマホを持っていたことが明らかとなるため、とても複雑な気持ちになる

 星砂は優しい人で、彼女が話を聞いてくれたからこそ、馬淵は救われた。しかし、彼女は“ヘビ女”という別人格を宿した解離性同一性障害(多重人格)の可能性が高く、馬淵の兄を殺したのは、星砂の別人格ではないかと想像させて、第2話は終わった。

 台詞の一つ一つが名言だと評される坂元裕二作品だが、星砂や馬淵の婚約者・結季(山谷花純)のように、もっともらしい台詞を言う人間が、必ずしも善人だとは限らないということが、この第2話では繰り返し描かれていた。むしろ、人間の無自覚な悪意を浮き彫りにする瞬間に、逆説的な形で名台詞が呟かれているようにも感じた。

 その意味で、坂元裕二の名台詞こそが、残酷な真実を覆う「マーヤーのヴェール」なのかもしれない。上辺だけの美しい言葉の裏に潜む、無自覚な悪意や鬱屈した感情を『初恋の悪魔』は暴こうとしている。

■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
公式Twitter:@hatsukoinoakuma
公式Instagram:@hatsukoinoakuma_ntv

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