『バイオハザード』初の実写ドラマは現代的な内容に 恐怖表現、原作ゲーム、配役から検証

『バイオハザード』初のドラマシリーズを検証

 そして、近年の連作『バイオハザード7 レジデント イービル』、『バイオハザード ヴィレッジ』は、ホラーの原点に立ち返って、プレイヤーを怖がらせることに注力している。とくに7作目では、ゲーム界に衝撃を与えた『P.T.』や、名作ホラー映画『悪魔のいけにえ』(1974年)の鼻白むほどの露骨なパロディ演出もあったものの、この方向性がシリーズの人気を維持させることとなったのは確かだろう。

 そう考えると、そこに重心を置かなかった本作の立ち位置は、やはり中途半端な面があったといえるのではないか。TVドラマ『SUPERNATURAL スーパーナチュラル』シリーズを成功させてきた、本シリーズのショーランナーであるアンドリュー・ダブは、シーズン2以降の制作を目指しているというが、少なくとも現在までの評価はあまり芳しくなく、今後のシリーズの行方は未定となっている。

バイオハザード
NETFLIX (c) 2021

 一つ気になるのは、本シリーズのアルバート・ウェスカーを、アフリカ系のランス・レディックが演じていることに、否定的な反応を見せる視聴者がいるということだ。その主張の大半は、多様的なキャスティングをしなければならないという、「ポリティカル・コレクトネス」の“縛り”によって、原作の設定が無理に改変されたというものだ。

 しかしこの認識は、実際のアメリカ映画、ドラマ界の現状や歴史的な流れを理解していないことからくるものだ。アメリカ社会には、いまも続く歴史的な人種差別が存在し、エンターテインメント業界でも、白人以外の人種は良い役を得ることが長年できなかったという前提がある。

 アメリカで多数を占める白人が主役になることは当たり前だと思うかもしれないが、実際にアメリカにおける白人の比率は減っていて、2021年には、その割合は6割をきっている。つまり人口の半分ほどはすでに白人以外の人種であり、それらの人々がエンターテインメント業界で白人と同程度の役を与えられるようになるのは自然なことなのだ。むしろ、そのような試みがなかなか見られなかった、これまでのアメリカ映画、ドラマ業界の方が異常だったのである。

バイオハザード
MARCOS CRUZ/NETFLIX (c) 2021

 その観点からすると、主要登場人物の多くが白人であるゲームシリーズと同じような設定では、差別的な印象を与える以上に、古くさい価値観に支配されているドラマだと見られかねない。これは日本の開発者が、おそらくは1970年から90年代前半までのアメリカのアクション映画を設定のベースにしていたからなのではないか(主要キャラクターの人種については一部例外もあるが)。もちろん、『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』が原作ゲームにある程度準拠していたように、舞台にする地域や、描く題材によって、人種的な偏りがある場合もある。しかし、今回のドラマ版のシリーズでそれを引き継ぐ必要はないと、製作側は考えたのだろう。

 白人がそれ以外の人種の役を奪う「ホワイトウォッシュ」が問題となったように、アフリカ系の俳優が白人の仕事を奪っているのもまた、おかしいのではないかという声もあるかもしれない。だが、現在のアメリカ社会には、いまだに強い差別が存在し、歴史的にホワイトウォッシュの方がはるかに多く行われてきたという事実を踏まえなければならない。外側からは、現在ポリティカル・コレクトネスが業界を支配しているように見えるかもしれないが、有色人種はそうやって絶えず声をあげながら戦わなければ、いまだ地位をつかむのが困難な状況にある。まだまだ映画、ドラマ界の差別の解消は途上に過ぎないのである。

バイオハザード
NETFLIX (c) 2021

 歴史、社会的な背景を無視して、表面的な正当性を主張することは、単にこれまでの差別の助長や抑圧に加担することになってしまう場合がある。それは、警官の人種差別と見られる殺害事件に対して、アフリカ系アメリカ人を中心に「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」と呼びかけるBLM運動が盛り上がったときに、「All Lives Matter(すべての命が大切)」と反対した、人種差別主義者の主張に同調するのと変わらない行為だといえるのだ。海外の映画やドラマを観て、その内容を知ったり、背景を調べることは、歴史や社会の実像を、より正しく把握することにつながることにもなる。

■配信情報
Netflixシリーズ『バイオハザード』
Netflixにて独占配信中
ショーランナー・製作総指揮・脚本:アンドリュー・ダブ
監督・製作総指揮:ブロンウェン・ヒューズ
出演:ランス・レディック、エラ・バリンスカ、タマラ・スマート、アデライン・ルドルフ、シエナ・アグドン、パオラ・ヌニェス
COURTESY OF NETFLIX

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