『バイオハザード』初の実写ドラマは現代的な内容に 恐怖表現、原作ゲーム、配役から検証

『バイオハザード』初のドラマシリーズを検証

 世界的なヒットを続けている、カプコンのTVゲーム『バイオハザード』シリーズは、その人気を基に、これまで多くの映像化作品が製作されてきた。今回Netflixで配信が始まった、同名タイトル『バイオハザード』は、そのなかでも初の実写ドラマシリーズとして注目を浴びている。

バイオハザード
NETFLIX (c) 2021

 製作は、2002年から続いたミラ・ジョヴォヴィッチ主演のシリーズや、最近もゲームの原点のストーリーに近づけて内容を一新させた『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』(2021年)を手がけた、コンスタンティン・フィルム。本ドラマシリーズでは、主人公を14歳の少女たちにするなど、大胆に翻案をしながらも、至るところに原作ゲームの要素を散りばめるという趣向で、現代的なドラマに仕上げている。

 しかし、そもそもゲーム作品は、映像化の題材として難易度が高いと言われ、批判を浴びやすいのも事実。本シリーズもまた、大きな注目を集めたと同時に、一部の視聴者から厳しい反応を受けることにもなった。では実際、その内容はどうだったのかを、細かく検証してみたい。

バイオハザード
DAVID BLOOMER/NETFLIX (c) 2021

 本シリーズの主人公は、「ニュー・ラクーンシティー」に引っ越してきた、ジェイド・ウェスカーとビリー・ウェスカーの姉妹。彼女たちの姓“ウェスカー”といえば、原作ゲームのプレイヤーは、シリーズ通して強い存在感を放つ、“アルバート・ウェスカー”を想起するだろう。そう、そのアルバート・ウェスカーが彼女たちの父親なのだ。姉のジェイド役をタマラ・スマートが、妹のビリー役をシエナ・アグドンが演じている。

 ドラマの始まりで描かれるのは、姉妹の間の愛情や確執。ティーンならではの家族や友人関係、恋愛や学校での悩みも扱っていく。この狙いが分かりやすいのは、妹のビリーが、明らかにシンガーソングライター、ビリー・アイリッシュのイメージが投影されたキャラクターだということだ。

バイオハザード
NETFLIX (c) 2021

 10代で鮮烈なデビューと大きなブレイクを果たし、現代の一つのアイコンとなった彼女は、とくに10代のファンが多く、羨望の対象となっている。つまり本作は、そんな新しい世代の視聴者を取り込むことを意識した内容なのである。このように本シリーズのかなりの部分が、劣等感や愛情の希求など、父親や姉妹の間の問題を中心に進行していくため、まずここに興味を持てなかったり、そのドラマとゾンビ化の脅威とに必然性を見出せない視聴者は、退屈な時間を過ごすことになるかもしれない。

 しかし、内容をよく味わっていくと、ここでは原作ゲームにおける、生物をゾンビ化、凶暴化させる「T-ウィルス」の感染が、思春期の心と身体の変化に重ね合わされているのが理解できるはずだ。突然に人が変わったようになったり、性的にも変化を遂げる時期に、どのような方向に転ぶこともあり得る10代の危なっかしさが、ゾンビ化として表現されるのである。これは、悪魔が少女に取り憑く恐怖を描いた名作ホラー『エクソシスト』(1973年)に似ている趣向だといえる。

バイオハザード
MARCOS CRUZ/NETFLIX (c) 2021

 とはいえ、同様の題材を扱った『エクソシスト』が、有無を言わせないほどに観客の心理を揺さぶる新鮮で圧倒的な表現の力があったことは事実で、本シリーズにそのような恐怖表現が欠けていたのも確かなことだろう。ただ、このあたりは、映画『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』が、比較的バイオレンス表現を強くしているため、本シリーズの方はドラマの特性上、いくぶんマイルドなものを目指した結果でもあるように思える。

 そう思うのはある意味当然で、ゲームのファンを喜ばせる内容では、先細りしていくのみだということを、作り手側は思案した上で、新たな独自のファン層を獲得するべく動いたということだろう。過去の日本で制作され、すでにNetflixでも配信されている『バイオハザード』のフルCGアニメーションシリーズは、たしかにゲームの世界観や表現に非常に近いが、ゲームの世界観を楽しもうとする視聴者以外にはなかなか興味が持てない内容であり、クオリティもけして高いとは言えない。その意味で、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演のシリーズは、原作ファンからいろいろ文句を言われながらも、その壁を突破して成功を遂げた映画シリーズだったといえる。

バイオハザード
NETFLIX (c) 2021

 そう考えると、本シリーズがドラマ作品として原作ゲームよりも奥行きがあり、大きなスケールを獲得しているのも確かである。しかし、そもそも『バイオハザード』シリーズが支持を受けたのは、エッヂの効いた恐怖表現だったはずだ。初期の作品の、固定されたカメラアングルで起こる、プレイヤーを震え上がらせるクールな演出は、一部の映画ファンにも興奮を与えることとなったのだ。

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