星新一の魅力は今もまったく色褪せない NHKでのドラマ化は理想のアレンジに

星新一、NHKでのドラマ化は理想のアレンジ

コウメ太夫の演技は必見

 『逃走の道』は、1964年『エヌ氏の遊園地』(新潮社)所蔵作品。2人の強盗が警察から逃げるために、夜の列車に飛び乗るが、その列車は様子がおかしい。乗客が一切動かないと思ったら、すべてがマネキンなのだ。

 一体この電車はどこへ向かっているのか? 強盗が何かを考え込むたびに、BGMとしてショパンの「別れの曲」が流れ、あまりの意味深さが不思議でぞわっとする。運転席に行ってみると、そこにいたのもマネキンだった。

「誰か助けてくれ!」「電車を止めてくれ!」

 叫び続けても、電車は止まらない。どんどんパニックになる2人の強盗を演じるのは、村杉蝉之介と、コウメ太夫。他の役者との掛け合いは一切ない、2人芝居だった。

 コウメ太夫は、本作がドラマ初主演。ノーメイクだと一見誰だか分からないが、情けない中年男の表情や声の作り方が絶妙で、役に見事にハマっていた。怯えた演技や、芸で鍛えられた目力が良かった。杉村との掛け合いも面白く、まったく見劣りしない演技だった。もっと俳優としての活躍を見たい。

 筆者の子どもが以前通っていたピアノ教室で、小学6年生の男の子が星新一の本を読んでいたことがあった。「今の子どもたちも好きなんだ」と、自分の子ども時代を思い出し、長い間読まれ続ける星新一作品へ、改めて尊敬の気持ちを抱いた。

 『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』は、4月にBSで放送されたのちに、地上波で放送された。映像、音楽、キャストの魅力とともに、15分という短い時間に星新一の世界観が詰め込まれていて、現代への問題提起もどこか感じさせる作品に仕上がっている。まだ観ていない人は、NHKプラスで配信もされているので、チェックしてみてほしい作品だ。

■放送情報
『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』
NHK総合にて、月曜~木曜22:45〜23:00放送
過去の放送回はNHKオンデマンドにて配信中
『見失った表情』
出演:石橋静河、前田公輝、玄理、野川慧、比嘉梨乃、Hitomi、澤田実架、中川愛理沙、妃乃ゆりあ、布施柚乃、松澤匠、武内駿輔
『逃走の道』
出演:村杉蝉之介、コウメ太夫、大塚ヒロタ、影山徹、竹井亮介、AMI、橋本美和
※シリーズ全作品20回はBSプレミアム・BS4Kで放送中(4~8月毎週火曜21:45~22:00)
原作:星新一『ボッコちゃん』『ようこそ地球さん』『なりそこない王子』ほかより
制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK
写真提供=NHK

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