『オビ=ワン・ケノービ』の予想もしなかった新説 最終回のオビ=ワンを象徴する台詞
『オビ=ワン・ケノービ』にはスター・ウォーズのスピンオフ作品史上、最高傑作になる可能性もあった。第3話、後の反乱同盟軍の母体になると思われる反帝国組織“パス”が登場する。この組織の連絡員であるターラはオビ=ワンに活動の理由を問われ、こう答える。
「帝国の理想に共感したけど、その本性を知る頃には手遅れになっていた。過ちを犯した」
彼らが一時的に身を寄せるセーフハウスの壁には、ここを通過した者達の名前が刻まれている。それは秘密組織“地下鉄道”を使って南から北へと黒人奴隷たちが逃亡した、アメリカの負の歴史を彷彿とさせる。オビ=ワンは言う、「誰しも間違う」。『オビ=ワン・ケノービ』は歴史と社会、個人の“過ち”の物語であり、愛弟子を導くことができなかったオビ=ワンがその過ちを清算する物語だ。
この現代的なテーマを得ながらも、『オビ=ワン・ケノービ』は第3話以後、語りのスタミナをまるで維持できていない。気のない演出、スリルに乏しいアクション、貧相なプロダクションデザイン、お粗末な脚本……ダース・ベイダーとの対決に用意された舞台はどれもドラマ性に乏しく、ベイダーの持つ威圧的でミステリアスな恐怖は損なわれている。デボラ・チョウ監督の資質は『ベター・コール・ソウル』等で見せてきた緻密な心理描写にあり、アクションには不向きだ。最終回直前の第5話に至る頃にはシリーズは墜落寸前である。
それでも最終回のオビ=ワンを象徴する台詞と、まさかのサプライズゲストに筆者は落涙してしまった。ユアンの名演は作品のグレードを1つも2つも上げ、かろうじてこのシリーズを救っている。結局、子供時代のノスタルジーに浸り、見たかった絵が見られればそれで良いのかもしれない。今後もディズニープラスは『スター・ウォーズ』ユニバースを拡張すべく魅力的なタイトルを揃え、ファンは少なくともそれらが配信される最低2カ月間は月額会員費を払い、ディズニーの株価に寄与し続けるだろう。だが、そのためだけに準備不足の、不十分な作品によって『スター・ウォーズ』の銀河が食いつぶされるのは僕たちが望んだことなのだろうか? この伝説に僕たちが語り継ぐような魅力はまだ残されているのだろうか?
■配信情報
『オビ=ワン・ケノービ』
ディズニープラスにて独占配信中
監督:デボラ・チョウ
出演:ユアン・マクレガー、ヘイデン・クリステンセン、モーゼス・イングラム、ジョエル・エドガートン、ボニー・ピエス、クメイル・ナンジアニ、インディラ・ヴァルマ、ルパート・フレンド、オシェア・ジャクソン・Jr、サン・カン、シモーヌ・ケッセル、ベニー・サフディ
製作総指揮:キャスリーン・ケネディ、ミシェル・レイワン、デボラ・チョウ、ユアン・マクレガー
脚本:ジョビー・ハロルド
(c)2022 Lucasfilm Ltd.