『スター・ウォーズ:ビジョンズ』で優れている作品は? 日本アニメの現状と未来への課題

『スター・ウォーズ:ビジョンズ』出来を考察

 ディズニーが権利を有して以降、さらに様々なメディアミックスを展開している『スター・ウォーズ』シリーズ。その一環として登場したユニークな試みが、『スター・ウォーズ』の世界観を基に、日本の7つのアニメーションスタジオがそれぞれに自分たちの個性を活かした短編作品を製作した『スター・ウォーズ:ビジョンズ』である。

 ディズニープラスで配信中の本シリーズに参加したのは、神風動画、スタジオコロリド、トリガー、キネマシトラス、Production I.G、サイエンスSARU、ジェノスタジオと、いずれも日本の気鋭のスタジオ。その作品群から各クリエイターの気合を感じるのは、世界のファンの注目が集まる舞台であると同時に、この結果を基に、もしかしたら『スター・ウォーズ』の新たなアニメシリーズの企画をものにできるかもしれないという心理があるからかもしれない。その意味で本シリーズは、日本のスタジオ、作家の見本市でもあり、勝負の場でもあるのだ。

 ここでは、『スター・ウォーズ:ビジョンズ』全9作品の中から、ピックアップしてその内容を伝えるとともに、最も優れていると考えられる作品を、筆者の独断で選んでしまいたい。そして、今回の作品群から感じられる日本アニメの現状と未来への課題を考えていきたい。

『The Duel』

 最初のエピソードは、TVアニメ『ポプテピピック』や『ニンジャバットマン』(2018年)など、勢いと個性の凄まじさが印象的な神風動画が送る『The Duel』だ。『スター・ウォーズ』シリーズの原点の一つが黒澤明監督の時代劇にあることに着目し、日本の時代劇のような宿場町を、『用心棒』(1961年)のイメージで、大部分をモノクロームで表現しているのが、本作の特徴。帝国軍が町を蹂躙するところに通りかかった浪人風のジェダイが、めし屋のおやじとともに敵の様子を伺う場面は、まさに『用心棒』そのものである。

 黒澤映画を代表する俳優である三船敏郎が、『スター・ウォーズ』第1作のオビ=ワン役としてオファーされ、断ってしまったという事実があるが、それを考えると、ここでの『用心棒』へのオマージュは、ユニークではあるが唐突な表現ではないかもしれない。

 ハリウッド大作映画の世界観を基に日本のアニメーション作家たちが短編を製作する企画といえば、『アニマトリックス』(2003年)が思い起こされる。もともと『マトリックス』シリーズは、押井守監督による『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)からの影響が大きい作品であったため、監督のウォシャウスキー姉妹が返礼のような意味合いで日本のアニメ業界を世界に紹介した企画といえよう。

 そのように考えると、『スター・ウォーズ』シリーズの創造主といえるジョージ・ルーカスのイマジネーションに大きな影響を及ぼした黒澤映画や日本文化について、今回製作を手がけた日本の各スタジオの多くが意識せざるを得なかったはずである。『The Duel』同様、各作品に“ライトセイバー戦”をフィーチャーしたものが多いのは、日本の時代劇の剣戟からの影響がシリーズの根底にあるからに他ならない。

『九人目のジェダイ』

 Production I.Gの神山健治監督による『九人目のジェダイ』は、熟練のライトセイバー職人の娘が主人公のエピソード。ジェダイ騎士団の再興のため7人のジェダイが一堂に会する場にライトセイバーを届けるという内容で、やはり黒澤明の『七人の侍』(1954年)を連想させる設定だが、物語は意外な方向に転がっていく。

『The Elder』

 また、トリガーの代表を務める大塚雅彦監督、脚本の『The Elder』も、やはりジェダイを題材に剣戟が描かれるが、これは全エピソードのなかで最も『スター・ウォーズ』への愛情を強く感じる作品だと感じられるところがある。

 マスターとパダワン(師匠と弟子)が問答を交わしながら、ある惑星の謎を二手に分かれて追っていくストーリーは、ジョージ・ルーカスの作劇を連想させる重みがあり、一見地味だが見応えがある一編だといえよう。短編のなかで表現し得るボリュームに内容を絞っていることで、ジェダイ師弟の関係性や、お互いのいる意味を双方の視点を繊細に描いているところに、ドラマとしての見応えがあるのだ。

『The Twins』

 同じくトリガーの作品で、今石洋之監督が手がけた『The Twins』は対照的に、三部作として描くような壮大なスペースオペラを、この短い時間で表現してしまおうという、挑戦的な一作である。今石監督のTVアニメ『天元突破グレンラガン』、『キルラキル』などを思い起こさせる、ハイテンションで勢いのある荒唐無稽な内容は、なるほど実写映画では真似のできない、アニメならではの表現といえるだろう。

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