『バスカヴィル家の犬』に感じた映画化の難しさ 失われたドラマ版の明確なカラー

『シャーロック』に感じた映画化の難しさ

 そこから先はひたすらに、今回の一連の事件のきっかけとなる別の事件について語られ、どのようにこの一連が起きたのかが情緒たっぷりに語られ、もう一捻りが加えられた先でも別の人物によって語られる。この、誰かが何かを“語る”というあまり映画的ではない方法論への執着が、ミステリー映画の旨味を削いでしまっていることは否めない。そこへ悲劇的なエピソードが重ねられることで、さながら『シャーロック』の形を借りた東野圭吾ミステリーのような感触が強まるのである(先に触れた2本の西谷作品のもう一本が、『ガリレオ』シリーズの『沈黙のパレード』だから尚更に)。

 無論、前述したドラマ版の敵役・守谷に関する言及もなく物語が運ぶ。ドラマ版を観ていれば、という描写はまったくなく、一個独立した作品として成立していることは悪いことではない。しかしそれが、ドラマ版にあった明確なカラーを弱めてしまい、ディーン・フジオカという俳優の個性をも薄めてしまった点は罪深い。愛媛の萬翠荘を駆使した豪奢な屋敷や、鉱山のトンネルや墓所周りの閉塞感など、映像的な見応えは確かにある。その反面、クライマックスの地震描写(警報音が少々リアルで注意が必要だ)は、いささか仰々しくもあり。テレビ局制作映画でありながら自らテレビ放送へのハードルを(このような表現で)上げることのねらいはどこにあったのだろうか。

■公開情報
『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』
全国東宝系にて公開中
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、新木優子、広末涼子、村上虹郎、渋川清彦、西村まさ彦、山田真歩、佐々木蔵之介、小泉孝太郎、稲森いずみ、椎名桔平
監督:西谷弘
脚本:東山狭
プロデューサー:太田大、高木由佳、石塚紘太
主題歌:由薫「lullaby」(ユニバーサルJ)
制作 : フジテレビ
配給:東宝
(c)2022映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」製作委員会
公式サイト:https://baskervilles-movie.jp/
公式Instagram:https://www.instagram.com/sherlock_cx/
公式Twitter:https://twitter.com/SHERLOCKcx

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